第10話 『罠と穴』作戦
三週間後…
ポセイディア中心部にある
立候補者は長年先帝に仕えてきたフィッツェ家当主ギュンター・フィッツェ、IMA党首のヘルムート・マテス、
「今日まできっちりと根回しはしてきた。IMAに入って30年、今日私はこの選挙で
IW党首のマテスは控え席に座り小さくそう呟きながら一人、勝手に士気を高めている。演説会の予定時刻に近付いていくにつれて議場が騒がしくなっていく。そして"13"の時報の鐘が鳴ると同時に
「静粛に。」
マイク越しに拡大された
「ありがとうございます。本日、中央駅にて極左によるテロ予告があったため、この議場の警備を第一AC師団が行なっています。AC師団はCNIの
議長の指示にグレンヴィルは拍手を受けながら壇上へと昇り、話し出す。
「議員の皆様、立候補者の有志諸君。こんにちは。議場の護衛を勤めさせて頂いておりますグレンヴィルと申します。本日は参加者や来賓の方々の安全を確保するべく、全力を尽くしてまいります。して、本日は重要な選挙ということで先々日仲間トオルから入手したばかりの情報を“中立的な立場から”公表させていただきます」
「トオル?貴族に魂を売ったIWのあいつか?」
「そいつから何の話だ?言ってみろ。」
議場をそう言った話やざわめきが覆う。グレンヴィルが
「静粛に。」
と言うと、再び議場を静寂が襲う。
静かになったタイミングでグレンヴィルは小さく息を吸って
「立候補者の一人であるヘルムート・マテス氏の党内資金着服とIWへの贈収賄が発覚しました!」
そう書かれた台本を読み上げた。
「嘘だろ…」
「俺はマテスに騙されたのか?」
「まさかあの香炉は…」
議場にどよめきが起き、議場がそれを鎮めようとするが、グレンヴィルの発言が逆に議員の怒りに火をつけた。
「彼は病体であったIWの前党首、マルセル・ツァニンに代わり党資金の管理を行っていましたが、百億アトランティカクロンヌを自らの贅沢のために用いていた模様です!また、着服した資金を糧にIMAや民主連合の党員に贈賄し、この選挙で勝利しようとしていた模様です!」
「ふざけんな馬鹿野郎!」
「先帝になんて不敬な!」
「マテスを候補から外せ!」
「
「裏切り者に制裁を下せ!」
議場内のざわめきは怒号へと変わり、議場は更に熱気に包まれた。
「ふざけんな!」
怒号を上げながらマテスが椅子を足で後ろに蹴って立ち上がりグレンヴィルを睨みつける。
「嘘をつくな法螺吹き! そんなことがあり得る訳が無い! 俺はトオルに……嵌められたんだ! その
顔をしかめて怒鳴るように話すマテスに対し、グレンヴィルは、狂気に満ちた笑顔で笑いながら、マテスに話す。
「違う違うどっちも違う!この話はお前の
グレンヴィルは台本そっちのけでマテスに話しかける。
「なっ…コルテーゼが…?
「これらの詳しい情報は明日の
壇上で一礼したグレンヴィルはそのまま階段を降り来賓席に戻る。そしてグレンヴィルが来賓席の革張りの椅子に座ったその直後、エリックが待ち構えていたと言わんばかりに全速力で壇上へ駆けあがりマイクを掴んで
「やはりマテスは売国奴裏切り者だ! こんな奴を新しい摂政にするなんて亡き陛下や女帝がどう思われることやら!」
「ふざけるな!違う! 後で必ず身の潔白が証明される!」
「『後で』だな⁉ 馬鹿め!明日のINBSで君の悪行は全て国民に暴かれる! ではなぜこのクソジジイを今日の選挙に参加させられようか! 私はここで投票を行いたい! この
議場からわっと拍手が上がり、万歳三唱が始まる。それを見たマテスは
「選挙の日を改めて欲しい!」
大声でそう叫ぶ。
「どうせその間に証拠滅却でもするのだろう!? ふざけるのも大概にしろ!」
「違う! そんなつもりはない!」
その言葉を聞くと、エリックは遂に怒りの限界に達した。
「ハハハハハ!冗談もほどほどにしろクソ以下のクソめ!そしてもしてめぇが摂政になれば全ての裏金が
そしてエリックは顔の向きを変え、議員にこう訴えた。
「時は決せられた!
エリックの怒りに満ちた演説の後、実際にマテスの参加の是非を決める選挙が行われた。これまでの各機関の予想ではマテス派が本来過半数を獲得し勝利するはずだったが、民主連合の実質的なフィッツェ支持表明。さらにはTV放送予告によってエリックの怒号と民主連合の鋭い眼差しの中次々とマテス派はマテスや党の元を離れて行き、数時間後にはマテスの摂政選除外と終身刑、特例での人権剝奪が決定した。
そしてマテスが人権選挙権を剝奪された後に残ったフィッツェ、フォリエ、カンビの三人で選挙が実施され、貴族たちの狙い通りフィッツェが新たな皇帝の摂政に就任することとなった。
――――マテスに対する『
大西洋のパンドラ ~The Day of Judgment Approaches~ @AS-Kanto
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