第3話 姉の導き、妹の魔法 -空飛ぶ妹は、姉の助言で覚醒する

- 響の魔法はどうやら他の魔法使いとは違うらしい……


 響は魔法を使う時に『スクロール魔法さん』という魔法を媒体とした知性体と対話をすると、証言している。

 更に、視界内に様々な情報がポップアップ表示されたり、今はもういなくなった姉との文通までサポートしてくれていると……

 

 文通?

 

「スクロール魔法さんが、ポーンって音立てて教えてくれるの。メッセージが届いていますって」

 どうも、メールのやり取りに近い事ができるらしい。

 響からの聞き取り調査では、姉である琴、奏と、二人と一緒に行方不明になった幸田詩琳しおりとは直接メールの送受信ができると言うのだ。


 三人はあの事故の後、異世界転生を果たしたと伝えられている。そんなことあるのか? いや、流石にラノベの読みすぎだろ?


 しかし、響が教えてくれる彼女たちからの伝言は、どれも的確なものであった。


「あのね、魔物から見つかる小さいやつの話なんだけどね」

 世界中に次々と現れている異形。これを響は魔物と呼んだ。それもお姉ちゃんに聞いたらしい。ということで、内調の公式文書にも魔物と記載することになった。

 

「あれはねぇ、マイクロマシンって言うんだって。未来から来た、マイクロマシン。元々医療用で、めちゃくちゃ健康になるの!」

 

 マイクロマシン。超小型機械。

 現在までに、数百種類以上の半導体組織が見つかっている。

 大きなものの中には3μm程度のものもあるが、小さい方は20nm以下のものもある。

 ほとんどウイルスと変わらないレベルのサイズ感だ。こんな機械は、現在の人間には作ることができない。


「このマイクロマシンが、魔法を司ってるんだって」

 確かに、今までに魔法が使える様になった娘達は、全員血液から高濃度の半導体組織……その、マイクロマシンとやらが検出されている。

 ただ、魔法が使えるのが少女ばかりなのは何故?

 

「子供の方が先入観ないからじゃないかな? だって。生殖器官が残ってる女性なら、きちんと訓練すれば誰でも使えるらしいよ」

 男性は使えないの?

「攻撃魔法は無理だけど、簡単な生活魔法なら訓練すればできるって。着火魔法とか」


 こうなると色々調べたくなるのが人情である。しかし、魔法少女に対して医療診断技術は無力に近かった。

 画像診断系の機械は、総じてまともに動作しない。磁気共鳴もX線も、みんな影になってしまうのだ。

 魔法実験の時を思い出してほしい。あれだけ盛大に線量計が警報を出す空間に、響はなんの防御もなく立たされていた。

 今までの実験で、響には放射線がほとんど届かないことが判明してる。周りの人が被爆しても、響の付けている線量ガラスバッチには放射線の影響が出ないのだ。

 同じことが医療機器でも発生する。響にはX線が通らない。なんなら強磁界も捻じ曲げられる。これは響に限ったことではなく、体内にマイクロマシンの感染が起きた人は、みなこうなりつつあった。


「お姉ちゃんが、この先電波がうまく使えなくなるかもって言ってるの」

 響からの報告で、また仕事が増える。

 確かに、最近原因不明の電波障害がよく発生していた。特に魔物が発生した地域の周辺では頻繁に無線や電話が使えなくなったり、測位衛星G N S Sが使えなくなったりしていた。

「マイクロマシンさんが増えてくると、どうしてもダメらしいの。これからどんどんそうなるから、覚悟しなさいって言われたよ」


 マイクロマシンはとても小さい。電波の周波数よりも圧倒的に小さく、どちらかというと可視光線レベルの電磁波の方が影響を受けそうなのに、電波の方が先に影響を受けた。

 まず最初に大きな影響が出たのはレーダーであった。航空管制に直接影響を与え、多数の航空機が発着する大規模空港はその役目を果たせなくなりつつあった。

 続いて、携帯電話やWi-Fiが影響を受けた。

 出力の小さいこれらの機器は、マイクロマシン濃度が上がってくるにつれ、使えない地域がどんどん増えていった。

 特に魔物が出現したことのある地域では、その日から一切の無線機器が使えなくなり、そこから日に日に使えない地域が広がっていくのが通例であった。

 

 軍や警察では無線の空中線電力をどんどん上げていき、なんとか対応している。しかし、異世界生物が出現している最中は、激しい電波障害により無線の利用ができなくなりつつある。

 

「将来的には、魔法で連絡取り合うといいよって言われたー」

 今、そんな器用なことができるのは、おそらく響だけである。

 通信機能は通信相手がいないと意味がない。と言うわけで、どうすればその魔法通信が使える様になるのか、響経由で問い合わせてもらっている。


「で、どう? お姉ちゃんからお返事きた?」

 今日は珍しく、岡田主幹が永田町からやってきていた。

 場所は帝国大学本郷キャンパス、生命科学研究室。実は、理沙と美智子の古巣である。

 二人はここで異世界生物研究をしているときに内閣調査室のスカウトを受けた。

 

 今は響専属の担当官として動いているが、本来はあの魔物達を研究する立場だった。世界中を駆け回り、各国での異世界生物出現地点へ赴いた。

 その中でも半導体組織の研究を専門としていたため、半導体組織を体内に大量に持つ響の研究に連れ出され、気がついたら担当官となっていた。


 今ではこの半導体組織のうち、単体で動き回っているものはマイクロマシンとして認識されている。

 

「お姉ちゃんからは、二十一世紀向けの魔法作るからちょっと待ってって言われてます」

 二十一世紀向けの魔法? 魔法に時代ごとの向き不向きとかあるの?

「安全対策たくさん盛り込んでるんだって」

 いや、安全対策必要なのは響の魔法でしょうがっ!

 

 響の使う魔法の中には、いくつかの攻撃魔法がある。

 その中でも、前回テストしたチャージ砲、ファイヤーボールをアレンジしたと言われるNon-Mass魔法、レールガン、この三つは本当に危険な魔法である。


 チャージ砲

「えっと、ファイヤーボールをこう、幾つも発射するイメージかな? 何十個、何百個、何千個のファイヤーボールを、針の先ぐらいの場所に発生させてから撃ち出すの」

 

 Non-Mass魔法

「んーとね、ファイヤーボールって、炭素の籠を燃やして投げてるんだけど、炭素の籠を減らしていくと、どんどん威力上がるの。お姉ちゃんはE=MC^2って言ってた!」

 

 レールガン

「電気通るものなら、だいたい何でも撃ち出せて便利なの。これもいっぱいチャージすると、凄く激しくなるよね」


 どれも、下手すると都市を丸ごと吹き飛ばすレベルの極悪な魔法である。

 そして、響は感覚派だ。

「うーん、このくらい」

 で出力決めたりしている。匙加減を間違えたらそれこそ国が吹き飛びかねない。


「その三つは、許可ある時以外は使わないでくれよ?」

「はーい。でも、その許可を出す人は誰なんですか? 出せる人、決まってるんですよね?」

「ああ。我々のボス、内閣総理大臣だよ」


 内閣情報調査室のトップは内閣情報官である。内閣法によって、内閣に任命される。

 その内閣のトップは、言わずと知れた内閣総理大臣だ。


「それで、他には何か変化はなかったかね? その、魔法とかお姉さんの話とか」

「あ、空の飛び方教わりました!」

「空を……飛ぶ?」

「はいっ! こんな感じに!」

 周囲に風が舞い広がった。書類の束がバサバサと吹き飛び、響が宙に浮いている。

「まだちょっと、周りを荒らしちゃうけど、上手くなれば結構静かに飛べるらしいですっ!」

「い、いいから降りてくれ! こんな狭いとこで飛ばないでくれ!」

「はーい」

 シューンと風の音が途切れ、響が床に足をつける。

「風魔法の応用らしいけど、上手くやればほとんど無音で飛べるみたいです!」

「ああ、今度広いところでやってもらおう……飛ぶ場所には充分注意してくれ……」

 理沙と美智子が飛び散った書類をかき集め、ソートし直していく。

 

「あー、それとねぇ、誘拐犯人さん倒した魔法、あれの応用教えてもらいました!」


 響が四歳の時、外国人に誘拐されたことがあった。響が魔法に目覚めたあの日のことだ。

 三人の外国人男性を、四歳の響が麻袋に詰め込まれたまま昏倒させた最初の魔法行使事件。


 その後繰り返された検証実験により、心筋に直接電流を流し込んでいた事が判明した。


「あの頃よりマイクロマシンの濃度が上がったから、脳幹直接狙えばどんな魔物も一撃コロリって教わりました!」

 何それ怖い。

「欠点は、スライムとかトレントとか、どこが脳だか心臓だかわからないやつには、無力な事らしいです」

 お、おう。そうだな……なら、脳幹とかバッチリわかる人間相手なら……


 色々と怖い想像をしてしまう岡田主幹。しかし、よく考えれば必殺仕事人のかんざし職人みたいなものと考えれば……

 

「あらかじめ魔法でマークした相手なら、世界中どこにいても倒せるから便利だよーって、言われました!」

 いや待てよっ! なんだよそれ、凶悪さのレベルが全然違うじゃねーかっ!


「その、マークってのは簡単にできるものなのかい?」

「スクロール魔法さんが、視界に入った人とか魔物とかを、みんなリストにしてデータベースに登録してくれるんです。人の顔忘れなくて済むから便利ですよ!」

 

 いや、便利ですよ!……じゃねぇっ!

 それってあれか? 街ですれ違った人とかもマークしてんのか?

「お名前とかは判らなくても、マークはしてると思います。その時ある情報でデータベースに載って、あとは都度更新していく感じみたいです」

 

 なんのためにそんな訳わからないシステムになってるんだ……

「強力な魔法使いは、やたらと命を狙われたりするらしいんです。で、自衛のために作ったって、お姉ちゃんが言ってました」


 また出た。お姉ちゃん。

 琴なのか奏なのか詩琳なのか……この凶悪な仕様は詩琳か?


 元内閣情報調査室に所属していた詩琳さん、さまざまな伝説を残した女傑らしい。

 岡田主幹が内調へと配属になった時にはもう大御所中の大御所だったので、直接お会いしたことはない。

 

「とりあえずその魔法は、身体、生命に危険を覚えない限りは使わないでくれたまえ……」

「はーい、わっかりましたー」

 本当にわかってんのかな……


 沢井響。中学一年生。なんとか酷い厨二病にならないよう、周りがしっかりせねばならない。

 

 日本を守るために……いや、世界を守るためにも!

 

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