第49話 2034年7月23日日曜日Ⅰ'

 足立と馬斗矢は、出迎えてくれた染谷老人が奥の部屋に消えると、階段を見上げながら小さく疑問を口にした。

「(どういうことだよ?ウェイクフィールドって名字なんじゃないのかよ?)」

「(分かんないよ……でも、『一はこの上の部屋に居る』って言ってたじゃない)」

「(まぁ……考えてもしょうがねぇか)」

「(うん……)」

 足立が一歩踏み出して、階段の踏面に体重を掛けると〈ギシッ〉と軋む。そのまま何度も軋み音を響かせると、左側の扉からキーボードを触る〈カチャカチャ〉という音が聞こえた。

「(あの〜、一・ウェイクフィールドくーん。僕ら、逢沢宗一郎さんの紹介で話を聞きに来た者共なんですがー?)」

「(足立君、そんな声じゃ聞こえないよ……)」

「あー、鍵なら掛かってないから、入ってくれて構わないよ」

 足立は自慢気に馬斗矢を見ると、目で「聞こえただろ?」という顔をした。



「へぇ……何とも奇妙な話だね」

 2人は純武が思い出したという幼稚園時代の記憶を一に話した。宗一郎の話によると、この一・ウェイクフィールドは、馬斗矢曰く超優秀だという宗一郎と対等に論を交わすことの出来る天才だという。しかも自分らと同い年。目の前の天才イケメンハーフが醸し出す優れた知性さが、2人には眩しく感じた。

「それで……どう?ウェイクフィールド君は何か心当たりがあるかな?」

「一で良いよ。長くて言い難いだろ?」

 そう言うと顎に手を当てて、純武の記憶の話を考察していた。

「……いや……見当が付かないね。逢沢さん、お兄さん自身は何と言ってたんだい?」

 一は弟である馬斗矢に質問する。兄の事は自分よりも弟の方が詳しいだろうと言いたいのだろう。

「僕も聞いてみたんだけど、さっぱり分からないって。丁度今、その記憶を思い出した本人がお兄ちゃんに直接話を聞きに行ってるんだ」

「そうか────11年前に、ね……」

 そう目を細めながら、机の下にあるミニ冷蔵庫から缶コーヒーを3本取り出す。「飲むかい?」と1本ずつ馬斗矢と足立に手渡した。

「全く分からない。分からないが────非常に興味が湧いたよ。どうだろう?その記憶を調べるのに、僕も仲間に入れて貰えないだろうか?」

「えッ!ウェ──えと、一君も手伝ってくれるのッ?」

「そりゃあ心強いぜ!一みたいな天才が一緒に調べてくれるなら俺達も助かるしよ!」

 3人は缶コーヒーの栓を開けると、殆ど同時に開けた。

「そうか。じゃあ宜しく頼むよ。馬斗矢、大介」

 一が缶を前に差し出した。馬斗矢はその缶を少しだけ眺めると、同じソファの隣に座る足立も缶を持つ手を突き出した。

「あっ、ごめん。じゃあ──」

 「かんぱーい」と足立が言って〈コンコンコン〉と缶同士のぶつかる音が室内に響いた。

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