第41話 2034年7月25日火曜日⑬
「聖真!ドアを開けてあげて!」
「分かったぜ〜ッ!」
純武がコテージに入ると、聖真と菜々子が抱き着いてきた。阿久里が「とりあえず閉めろ!」と言ったので3人は離れてその通りにした。
純武なコテージの中を見渡すと、瑠璃が口元を両手で押さえて微笑み、一が目を大きくさせて緑色の瞳を見せ付けていた。
「ご無事で何よりです!」
「驚いたよ」
瑠璃が口元で両手を合わせる。一も純武に向かってOKサインを出した。
「う、あ、あぁ。心配させてごめん。だけど……」
純武は2人足りないではないかと思う。阿久里と雨宮は自分が生存していたことにあまり疑問を持っていない様に見えた。それよりも別の、悲壮感を感じ取った。何しろ、雨宮は座り込んで泣いているのだ。
「本当に良かったよ……純武……」
菜々子が指で目を擦りながら言う。聖真は純武の左肩に置いた手の握力を強める。言葉は要らない。その強さで十分伝わってきた。
「あ、あの……諸崎さんと松木さんは?」
感慨にふけるのは後だ。コテージに入って直ぐに感じた疑問を尋ねた。
「──死んだよ」
阿久里が言う。
純武には靴底でガリッと潰れる感触があったが、それは自分が床に散らばった破片を踏んだ音だと認識した。そしてそれが阿久里のサングラスだった物だと分かった。
「────遅かったかッ!」
純武はコテージの丸太で出来た壁を手の平でパンッと叩く。阿久里が「遅かった、だと?」と不思議そうに呟いた。
「おい。お前、何で倒れたんだ?」
皆が聞きたいことに違いない、と純武が顔を上げる。
しかし、一が代わりに口を開いた。
「君が生きているなら、急死とは関係が無い。となると考えられることは1つだ。さっき『逃げろ』と森の中で聖真が合流した時に何かがトリガーとなって、君はフラッシュバックを起こして意識を保てなかった。違うかい?」
「……スゲーな。やっぱり一は天才だよ」
心の底から純武は驚いた。そこまで読み取れるものなのかと。一とならばこの状況を本当に打開出来るかもしれない、と純武は一がここに居てくれたことが本当に有り難く感じた。
「やっぱりそうか……」
純武は、阿久里も納得しているということは、自分が倒れた状況と諸崎や松木が死亡した状況が異なっていたからだろうと推測した。
「それで?フラッシュバックした記憶はどんなものなんだい?」
「あぁ……でもその前に、聖真と阿久里さん達の話を聞かせて貰ってからでいいか?」
自分が気を失っている間にも死人が出てしまった。ただでさえ罪悪感を感じる純武は苦悩する。
突如蘇った記憶、その事実。それを伝えなければならないが、親しい人物を失ったばかりの人間への伝え方には注意を払う必要がある。分かっている情報は全て知っておくべきだと純武は考えたのだ。
聖真から舞谷蓮子の自宅を調べたことと祖母の話を聞いたこと、そこから推理した内容を聞く。続いて阿久里と雨宮から、諸崎と松木が急死するまでの一連の流れを教えてもらった。その阿久里の経験を加えて、舞谷蓮子が地面や床を〈歩ける〉という矛盾は残るものの、〈触れられない〉という謎の体質があるのでは無いかということも。
純武は考える。自分の記憶と仲間達が必死に集めた、阿久里と雨宮が親しい人間を亡くしてまで手に入れた情報を駆使して事実を繋ぎ合わせる。そこから見えてくる限りなく真実に近いであろう推測を。
それらの話を聞いてから、純武が壁にもたれながらコテージの凹凸のあるフローリングに座り考え込んで何分経過しただろうか。いい加減に教えろというように阿久里が催促した。
「おい!早くお前の思い出した記憶を教えろ!そこに奴を捕まえる……殺す為のヒントがあるかもしれねぇ!」
「────そうや!早く教えてぇな!」
(……やっぱりこの2人は復讐を考えてるんやな……でも、だからこそ気を付けんとあかん……俺が導き出した推測は……)
「わかりました」と純武が立ち上がる。
純武は、まだ考えが整理出来ていないが思い出した記憶を伝える為に口を動かした。この記憶を話している間に、自分の考えも整理しなくてはならないと自分に言い聞かせながら。
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