第三章 動き出す虹

第25話 2034年7月25日火曜日①

2034年7月25日火曜日

 目的のキャンプ場へは一宮から公共交通機関を使って2時間半程掛かる。車で行ければ一昨日滋賀に行った時と同じ1時間ちょっとで済むのだが、大人2人は防犯カメラの映像を重箱の隅をつつく所業でチェックしなければならないので仕方ない。何せ、純武の記憶では白い服を着ていたが、その時点の女の服装も顔すらも分からない。髪型も色も変わっている可能性がある。女の可能性だけでなく、各映像から共通する人物を行き交う人や人混みから見つけ出すのは至難の業だろう。

 結局、夏休み中の学生にとっては朝早の7時に一宮駅に集合して、電車とバスで郡上市へと向かうことになった。

「ふわぁ〜……眠〜」

 純武と菜々子の間に立つ聖真が大きな欠伸をする。

「夏休みに入ったのに毎日朝から活動してるもんね、私達」

 聖真を生易しい目で見る菜々子の後方から4人がやって来た。

「おはようございます」

「おはよう」

 瑠璃と一が最初に挨拶をする。馬斗矢が足立の手を引きながら「おはよう、皆」と後ろから顔を出した。足立は眠そうな顔で生気をあまり感じない声で「おはー」と言って、純武達も挨拶を交わした。

「じゃあ全員揃ったし、少し早いけどホームに行こうか」

 改札に向かおうとする純武に菜々子がストップをかけた。

「ちょっと待って!」

「なんだ?忘れ物か?トイレか?」

「違うわよッ。──てかトイレとか軽々しく女子に言わんでくれる?」

 露骨に嫌そうな顔をして純武を注意する。確かに女性に対しては礼節に欠けていた。

「すまん。つい反射的に……」

「もういいわ。それよりね!」

 いいのか、とツッコミそうになったが気持ちを押し留めることに成功した純武は菜々子の発言を待つ。

「じゃーん!」

 菜々子がバッグから色とりどりの布で出来たストラップらしき物を取り出した。

「何これ〜!」

 目を擦りながら聖真が菜々子の手の中を見下ろす。

「ミサンガですよ」

 瑠璃が菜々子の隣に移動して解説した。

「諸説ありますが、ミサンガはブラジルのお守りの様なものです。恋人や友人で付けるもので、自然と切れたら願いが叶うなんていうロマンチックな物なんですよ」

「昨日ね、瑠璃ちゃんとこっそり作ったんだ〜」

「僕も作り方を検索したりしたよン!」

(確か昨日の帰りに瑠璃ちゃんとどっか行くって言っとったな。これを作っとったって訳か)

「1人1つずつあります!」

「色は私達で決めさせて頂きました」

 2人で「ふふふっ」と笑い合っている。

 渡されたミサンガの色は、赤色が純武、橙色が聖真、黄色が足立、緑色が馬斗矢、水色が菜々子、藍色が瑠璃、紫色が一だ。

「おや?これはもしかして……」

 一が何かに気付いたのを菜々子は見逃さなかった。

「その通り!これは──」

「虹色です!」

 ニッコリと笑って菜々子に「ね!」と同意を求める瑠璃。菜々子が言いたかったであろう言葉を瑠璃が横取りする形になってしまったのは、見ている誰にでも分かった。がしかし、瑠璃には横取りしたという自覚が全く無いことも同時に分かる。

「うん……そうなの。虹なの」

 菜々子の力無い笑いが虚しさを際立たせている。

「虹……か。7人だもんな。昨日のグループ名はこの事か」

「何かイカすね〜」

「目ぇ覚めたぞー!」

「こ、これはどこに付ければいいのかな?」

「て、手首かな……あははっ……」

「チーム名にも良いですよね」

「僕等のチーム名が虹ってことかい?」

 お互いに右手首に結び合う。同じ目的を共有する仲間。そして友人。これからこの虹がどうなるか。直ぐに消えて無くなってしまうのか、それとも橋のようにどっしりと長い時間そこに在るのか。純武はそれはこの連続急死事件が解決するかどうかに掛かっているだろうと、右手首の赤色のミサンガを睨んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る