第24話 2034年7月24日月曜日④
部屋に戻るとやはり涼しくて心地良いと純武は自分の身体が冷却されるのを感じた。足立は動画をリピートしたかのように、またエアコンの直下に居た。
「大丈夫か?2人共」
純武は瑠璃と馬斗矢を見ながら言った。
「大丈夫です。すみませんでした」
「いや、僕の方こそ……一君もごめんよ」
瑠璃が感謝を言い、馬斗矢が改めて一に謝罪する。
「いや、いいんだ馬斗矢。気にしないで」
優しい言葉で一が応えた。
「瑠璃ちゃん。こんな時に悪いんやけど、チコパフに調べて欲しいことがあるんや」
純武は瑠璃にチコパフを使って郡上市の心霊関係で、白い服の女の情報が有るかどうか調べてもらった。
「どう?」
「ンー。無いねンー。有ったのは落武者の幽霊くらいだねンー」
「そうか……」
これで純武の記憶の女は幽霊では無い可能性が高まった。後は祠の情報だ。
「瑠璃ちゃん、ついでに郡上市の祠と心霊スポットで聞いてみて貰えるか?」
「分かりました」
瑠璃がチコパフに話し掛ける。数秒してアニメ声で応答があった。
「無いンだよねンー。本当にそンな情報有るン?全然役に立てなくてムカつくンー!」
「いいのよチコパフ。役には立ててるから」
ともあれ、白い服の女が幽霊では無い可能性が濃厚になったとことで、純武の緊張していた精神が少しばかり緩んだ。
そこで純武は、今朝の段階からずっと一がチコパフを興味深そうに見ていることを思い出した。しかし、一が瑠璃に話し掛けないのは何故だろうかと疑問に思い聞いてみた。
「一、チコパフのこと気になるんやろ?聞けばいいじゃん?」
「あ……ああ。そうだね。──彼方さん、このKAI の仕組みはどういうものか教えてくれるかい?」
「はい。まずこれは通常のアプリとは違って────」
瑠璃の話を一が熱心に聞いている。所々で一が質問し、瑠璃が助言を求める時もあった。この2人の優秀な学生の会話の殆どが純武には理解出来ない。
(一体全体この2人の頭の中はどうなってるんや?)
そんな風に2人を眺めていると、いつの間にか横にいた菜々子に肩を叩かれた。
「ビックリした?」
「いや、しとらん」
「何よー」
膨れる顔を横から見る。
「さっきは、ありがとな」
菜々子は「ん?」という顔をしたが、馬斗矢を収めた件のことだと察したようだった。
「──ううん。だって皆仲良くして欲しいやん」
菜々子が馬斗矢を説得している時、白い服の女の記憶の時みたいな既視感を純武は感じた。それは、あの図書館。何であの日を思い出したのだろうと不思議に思った。菜々子が必死に馬斗矢を諭す光景が、あの日と重なる。ただ3人で図書館に集まっただけなのに。
「そうだな。折角一緒に行動するんだもんな」
言うと菜々子が急に「そうだ!」と言った。
「な、なんや?どうした?」
「ううん!何でもないー」
絶対に何かあると思ったが、純武は納得するフリをした。菜々子は自分のバッグの方へと小走りで駆けていった。
瑠璃と一の方はどうなったかと純武が様子を見に行くと、大体のKAIの説明を一が聞き終えていたところだった。
「これは面白いAIだね。ナビゲーションからここまで発展するとは」
「ありがとうございます。良かったね、チコパフ」
「瑠璃嬢が褒められると僕も嬉しいよンー」
「1つ試して欲しいことがあるんだが、いいかな?」
「はい。なんでしょう?」
「さっきの警視庁のコンビニの映像を出せって言ったら出せるかい?」
瑠璃が苦笑いをしてチコパフを見る。
「……ハッキングするということですか?それは流石に無理です……」
「そうだろうね。いや、ダメ元で聞いただけだから」
「俺もそれは流石に無理だって思うわ」
聞いていた純武は瑠璃とチコパフを擁護した。いくら次世代AIだからといってそんな事まで出来たら世の中が大変なことになる。一くらいの頭脳があれば脳内で答えが出そうなものだろうにと純武は思う。
「だから、試しに聞いてみただけだよ。もしそんな事が出来たら便利じゃないか」
ハハッと明るく笑う一。しかしその顔が、純武にはどうしてか無理矢理笑っている様に見えた。
この後、井上は警視庁の知り合いから例のコンビニの映像を手に入れることに成功し、大里がその映像と宗一郎の駅のホームの映像をコピーして帰室した。そして、2人は周防を警護しつつ映像の確認に入ることとなるが、純武達学生はどうするかという話になった。一が言っていた祠の確認については井上が待ったをかけた。危険過ぎるからだ。しかし、一は頑として郡上市に行くことを譲らなかった。結局、7人は郡上市で白い服の女の聞き込みをしに行き、一だけが祠の確認をするということで手打ちとなった。
純武と聖真はアパートから帰宅する道中に通っていた幼稚園に赴いた。11年前の確認を取る為だ。
一応、純武は聖真の記憶を信用してはいるが、郡上市に行ったのに実は遠足先が違いましたでは話にならない。
幼稚園に着くと、2人は事務員の人にえらく怪しまれた。しかし、11年前から働いている何人かの先生が純武のことを覚えてくれた。過去に名字も名前も同じ園児が居なかったからだそうだ。そのため、スムーズに昔の遠足のことについて聞くことが出来た。結論から言うと聖真は正しかった。聖真は「ほら〜、俺の言った通りじゃ〜ん」と誇らしげに言っていた。
11年前の2023年7月25日、世界的な感染症が拡大してから純武達の学年にとって初めての遠足は、突然の行動制限解除に伴い夏休みに入ってから決行された。行き先は郡上市のキャンプ場。現在の遠足先も当時と同じだとのことで、キャンプ場の詳しい位置も聞くことが出来た。そして、そこは周防が示した祠の目と鼻の先だった。
それと特段驚かなかったが、その日、何人かの園児が迷子になったらしく、その1人が純武だったことをある先生が覚えていた。「きっと生まれて初めての遠足だったから皆はしゃぎ過ぎて好き勝手動いちゃったんだね」とその先生は笑っていた。純武は、その迷子になっている時に白い服の女と会ったのだろうと思った。
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