第23話 2034年7月24日月曜日③
馬斗矢と瑠璃が落ち着くまで、菜々子と聖真が部屋に残ることになった。純武、足立、一はアパートの外にある自転車小屋の日陰でその間待機することにした。
「おい」
足立が一に声を掛けた。
「──なんだい?」
「馬斗矢のこと……悪く思わねーでくれるか?」
純武はてっきり足立が部屋に残るとばかり思っていたが、足立は聖真に馬斗矢のことを頼んで2人に付いてきた。その理由はこれを言うためだったのだと納得した。思えば、馬斗矢の感情が爆発した瞬間に馬斗矢の身体を掴んだのは足立だった。最近では頼りない所がチラホラ見えたが、なんだかんだで馬斗矢のことを最も気にかけている足立は本当に良い奴だと純武は思う。
「気にしていないよ。馬斗矢の気持ちは理解できる。あれを言ったら怒られるかな、と覚悟はしていたよ」
一は微笑するが、少しばかり硬い顔だった。あれだけ激怒されれば誰だって動じてしまうのが普通だ。
「これからどうするべきだと思う?」
雰囲気を変えたいという気持ちもあるが、それよりも井上と大里が頑張っているのだ。純武は自分も何かをしていないと落ち着かないと思った。目標を設定せずにはいられなかったので2人に聞いた。
「どうするって……井上さん達がカメラ映像をチェックするのを手伝うんだろ?」
「それは非効率だね」
足立の返事を一がぶった斬る。それによろめく足立の姿を無視して一は言葉を続ける。
「今の段階で僕らが分からないことは、急死の方法と急死の間隔、被害者の位置を知った方法だね。犯人は──この際君の記憶の女と仮定しておいて良いかもしれない」
「そうやな……一はこれからどう動くべきだと思う?」
「……郡上市かな」
純武はその言葉で思い出す。昨晩、瑠璃のチコパフに調べてもらうとした件だ。
「あー、忘れとった」
「どうしたんだい?」
「いや、郡上市の心霊スポットとかに白い服の女の噂とかが無いかなと思って調べたんやけど……自分ではヒットしなかったんや。だで、瑠璃ちゃんのチコパフに聞こうかと思って忘れとった……」
「君も犯人は幽霊では無いって言ってたけど、その裏付けってことかい?」
一の言った通りであった。それが裏付けられれば犯人人間説が純武の中で濃厚になるからだ。
「僕はどちらにしても郡上市に行ってみる必要があると思うね」
「祠──か?」
一が頷く。
「そう。周防さん──逢沢さん達が行ったその祠は確認すべきだろう」
純武も勿論気になっていたその祠。だが、それに触れると祟られるかもしれないという周防の言葉が純武に恐怖心を僅かながらでも感じさせた。
「一は怖くないんか?」
「怖い?……そうか。怖いという感覚が麻痺しているんだろうね」
昨日一が言っていた“好奇心”が、一の精神を支配しているのだと純武は悟る。
純武は犯人が人間だと考えている。それでも見たことの無いその祠は、自分に不吉な何かを送っている気がしてならなかった。触れてはいけない物だと。
「……いかんな。正直に言うわ。俺、こえーわ」
照れ笑いしながら一に言う。純武は本心を伝えなければいけないと思った。今の自分の気持ちを一に知っておいて欲しいと思ったのだ。
「ふっ……そうか。それが正常だと思うよ。良く分からない重力と気温の変動がある場所なんだ。分からないものは怖いもの──純武は正常だ」
純武は心底ホッとした。今日始めて会う人物に本音を伝えられたからか。自分とはタイプが違うと思うが、このイケメンハーフからは何故かシンパシーの様なものを感じる。純武は、一とは以外と長い付き合いになるのではないかという予感を密やかに感じた。
「あ、菜々子からメッセージや」
「もう大丈夫だよ」と部屋に戻って来いという催促だ。
「もう大丈夫やって。足立〜」
純武が呼ぶと、いつの間にか暑さに心を抜かれていた足立が急に部屋に向かって走る。あいつの暑さに対する弱さは尋常じゃないな、と思いながら、純武は一と共に部屋に向かった。
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