第19話 2034年7月23日日曜日①"

 純武は車の後部座席に座り、山にひしめく木々がひたすら過ぎ去っていく高速道路の景色を眺めていた。

 助手席には井上が座り、他の事件の話をしているのだろう。純武が知らない名前の人物や地名が沢山聞えてくる。ハンドルを握る大里という刑事は、今朝会ったばかりの時は井上に対して不機嫌そうに文句を言い散らしていたが、車が高速に入る頃には今のように普通に会話をしている。井上は「刑事が1人よりも2人の方がいいだろ?」とこの大里という若い刑事を連れ立って待ち合わせ場所の純部の家近くのコンビニにやって来た。大里は純武達の事を全て聞き知っているようであり、待ち合わせの時に純武に向かっては礼儀正しく「君が雅巳純武君だね。僕は大里幹春(おおさと みきはる)。宜しくね」と自己紹介をしてくれた。

 周防実千に連絡を取ったところ、去年の8月からアメリカの企業に出張していたらしく、丁度先週の日曜に帰国したばかりだという。そのため、ニュースで逢沢宗一郎が急死したことは知っていたが、加茂田明宏、今永美咲、朝霧寿徳、宮下久留麻が同じく急死していたことは知らなかったらしい。連絡を取った井上によると、自分と関係のある5人が全員亡くなったことを知ってかなり動揺していたそうであり、警察が話を聞きたいからそちらに会いに行くと言うと「助けて下さい」と寧ろ会いに来ることを懇願していたという。

 周防には1年間アメリカに行っていたというアリバイがあったことも大きい要因だが、井上曰く、大抵は警察が話を聞きたいと言うと嫌がられることが殆どだそうで、周防のようにウェルカムなことは滅多に無いのとことだ。このことからも、井上は周防が犯人である可能性が殆ど皆無だろうと昨日の喫茶店で言っていた。

「雅巳君、あと15分くらいだがトイレは大丈夫か?」

 井上が振り返って聞いてくれた。確かに家から出る時に用を足すことを忘れていた。まだ催した訳では無いが、一応済ませておいた方が良いかもしれないと純武は思う。

「あ、ならお願いできますか?」

 井上は頷くと大里にコンビニに寄るように言う。丁度高速の出口が見えたところだった。



 コンビニでトイレを済ませると、大里がレジで買い物をしており、窓の外を見ると井上が紫煙をくゆらせている。外へ出ると肌を刺激してくる太陽の日差しを痛いほど感じ、片手で視界に日陰を作りながら空を見上げた。

(このクソ暑い中、菜々子と聖真は彼方瑠璃に、馬斗矢と足立は一・ウェイクフィールドに会いに行っとるんだよな。井上さんの“におい”を信用しとるけど、万が一どちらかが犯人もしくはその関係者だったらどうしよう……馬斗矢はともかく、あぁ、足立もか。菜々子と聖真は俺が巻き込んだ様なもんやし……)

「仲間が心配か?」

 いつの間にか純武の傍で煙草を咥えた井上が立っていた。

「ええ……まぁ」

「大丈夫だ。俺の“におい”を信用してくれてるんだろ?」

 純武の方に行かないように目はこちらを向いたまま、顔を横にずらして煙を吐く。煙がこちらに来ないように気遣ってくれたのだろう。

 コンビニの自動ドアが開く音がすると、大里が全員分の缶コーヒーを手渡してくれた。純武はお礼を言って2人に続いて車に乗り込む。コンビニから車までの短い距離を歩いただけなのに、握る缶コーヒーには大量の結露が付着していた。



 周防の住所は滋賀県の長浜市だという。高速を降りて15分くらいだと井上が言っていたので、着く頃の時間を考えるとコンビニに寄ったことを差し引くと片道1時間ちょっとだ。自分が毎日登校に掛ける時間で県を2つ跨いだのだ。純武は一宮市は良い所だと思っており、理由の1つがアクセスの良さだ。本州の真ん中に近いので、都会に行きたければ東京や大阪には名古屋から新幹線で行けるし、自然に触れ合いたければ山なら岐阜、海なら愛知の知多半島か渥美半島もしくは三重に行けばいい。たまたま周防が滋賀県在住であり、車で1時間だったことで改めて純武はこのことを改めて実感した。



 車が市街地に入ると辺りにはコインパーキングがあちらこちらにあった。大里はその内の1つのパーキングに入って車を停車させる。車を降りるとすぐ近くにアーチ状の屋根をしたアーケード街があった。一宮にも同じアーチ状のアーケード街があるが、それよりも気持ち小さめの道幅だった。

「住所だと……こっちだな」

 井上がスマホの地図アプリを見ながらアーケード街とは逆の方を指差す。数分歩くと目的地の白色の2階建てアパートに着いた。ここの2階に周防宅がある。



 アパートは玄関がオートロックになっているため住人しか入ることが出来ない。井上が横に付いているインターフォンで周防の部屋番号を入力し呼び出しボタンを押す。純武はその手慣れた動作を見て、井上も恐らくこと大里も日頃からこうして数多くの聞き込みをしているのだなと、過去に観たいくつかの刑事ドラマを思い出しながら思った。〈ピンポーン〉と呼び出し音が鳴ると、すぐにスピーカーから女性の声で応答があった。

「はい。周防ですが……」

「おはようございます。昨日お電話しました愛知県警の井上と申します」

「同じく大里です」

「お待ちしてました!どうぞ、上がって下さい」

 「ウィーン、カチャ」とドアのロックが外れる音がした。ドアを開けて3人が中に入る。純武は自分だけ名乗らなかったが良かったのかな、と思いながら階段を昇る。部屋の前に来るともう一度井上がインターフォンを押す。すぐにドアが開き、中から女性が上半身だけ姿を表した。

「どうぞ、お入りください」

 井上達は「失礼します」とぞろぞろと入っていく。部屋に入ると中々に広いリビングに案内された。自分の部屋が6畳だと聞いているからその3倍はあるので18畳はあるだろうと純武は計算した。

 リビングに一番最後に純武が入ると周防と目が合った。不思議そうにこちらを凝視している。当たり前だろう。刑事が来ると言っていたのに子供が1人紛れていたら誰だって不思議に思うはずだ。井上と大里は同時に警察手帳を出し改めて自己紹介を始めた。

「愛知県警の井上です」

「愛知県警の大里です」

 周防が純武を見る。

「えっ……と、僕は……」

 純武が困っていると井上がこちらに右手の甲が見える形で周防と純武を遮った。

「すみません。この子の話をする前に、順を追って説明します」

 周防は怪訝そうに「はぁ……」と相槌を打つと横長のテーブルにある2つの独立した椅子と2人掛けのソファに3人に着席を促した。1つの椅子に井上が、ソファに大里と純武が座る。井上に向かい合う椅子に周防が立ち、麦茶の入ったコップを人数分置いてから腰を下ろした。

「周防実千です」

 小さく頭を垂れて自己紹介をする。純武は周防の顔、姿をあの日の記憶と照らし合わせる。────周防が白い服の女では無いと判断することが出来た。その純武の判断を仕草で察知して頷いた井上が「では——」と口を開く。

 昨日の喫茶店で話した内容を、漏れがないように時々純武に確認を取りながら周防に話す。すると、話の途中から純武を見る目が自然になっていくのが分かった。井上は切りの良いところで麦茶を半分くらい飲んでから、周防に対して質問した。

「と、こんな感じなのですが、この流れから考えると次はあなたが急死する可能性が高い。勿論、あなたが犯人もしくは犯人の関係者であることも想定しましたが、この1年アメリカに行っていたというアリバイがあるのでそれは否定できます。しかし、本当のところはさっきから言っている“におい”をあなたから感じないからです」

 周防は緊張した雰囲気の中で、その言葉にだけは一安心したという息を1つ漏らした。

「失礼ですが、周防さんは大学では何を勉強されていたのですか?」

 純武が勇気を出して質問した。ただの学生がこんなことを聞いて良かったかと思ったが、周防は意に介した様子もなく答えた。

「大学?主には素粒子物理学を専攻していたわ」

「失礼ですが、どちらの大学で?」

 井上が被せて質問してくれた。これは高校生の自分では聞きにくいことだ。井上は純武に気を使って代わりに聞いてくれたのだと理解した。

「京都大学ですが……それが何か?」

 京都大学ということは、4人目に急死した宮下久留麻と同じ大学だ。井上も同じことを思ったらしく、すぐに周防に確認を取る。

「宮下久留麻君と同じ大学ですね」

「……ええ」

「これまた失礼ですが、おいくつでしょうか?」

「歳ですか?今年の5月で29になりました」

井上も純武も、可世木菜々子の年齢当てスキルの高さに感服していた。

(宮下久留麻は23歳の大学4年生だったよな。在学時期は重なっとらん……仮に周防さんが大学院に行っとったらどうや?──宮下久留麻が1年で19歳、4年前だと周防さんが25歳。大学院に進学していたり休学していたら在学時期が重なる可能性もあるか……?)

「周防さんは大学院には?」

「行ってないわ。卒業してすぐに今の電子機器メーカーに就職したから……」

「大学を休学したりは?」

「してないけど……それがどうしたの?」

「──雅巳君、その辺りは5人との関係をまとめて話してもらった方が早い」

 井上が純武の質問の意図を読む。そうだ。周防本人から加茂田明宏、今永美咲、朝霧寿徳、宮下久留麻、逢沢宗一郎の関係を聞き出せば済む話だ。“考え病”で視野が狭くなっていたと純武は自分を叱咤した。

「聞かせてもらえますか?加茂田明宏さん、今永美咲さん、朝霧寿徳さん、宮下久留麻君、逢沢宗一郎さんとそしてあなたの6人がどの様な関係だったのかを」

 周防は膝の上で組んでいた両手の指にグッと力を入れて言い始めた。

「どこから話せばいいかしら……私──学生時代は研究や論文に没頭して、就職してからも開発部門で研究と開発に没頭していたので心が……というか精神が硬く凝り固まったという表現が合っているかもしれません。日々論理に基づく思考をする必要があったので頭の中がガチガチの思考回路というか何というか。すみません。表現が難しいですが、日常が息苦しくなったんです。そんな時に動画投稿サイトで心霊現象の動画がアップされているのを見つけて、馬鹿らしいと思いながら観たんです。そしたら、凄く面白くて。それから不思議な現象や説明不可能な出来事、前世の記憶を持つ子供や動物と会話できる人──」

 井上は「ちょ、ちょっと待って下さい」と話に割り込んだ。

「つ、つまり──オカルトに興味を持つようになった、ということですか?」

「はい……何でも理論的に考えることが辛くなったんだと思います。その反動なんでしょうね」

 純武は周防の話に具体性の無さを感じつつも、彼女の言わんとしていることは何となく理解はできた。要は現実逃避的なものなのだろう。シビアな思考で生き過ぎてきた反動ということか。

 そういえば大里は自己紹介以降何も言葉を発していないことを思い出し隣を見たが、メモ帳に必死に書き込みをしている。井上から記録に注力するように指示されているのだと分かった。

「オカルトに興味を持ったことはわかりました。それで?」

「それで……去年の年明けくらいです。私がよく観ている動画を投稿する人のコメント欄に、オフ会を提案している書き込みがありました。それが逢沢君だったんです」

 純武は井上の顔色が悪くなっているのに気付いていた。それに気付いた純武も、同じ顔をしているのではないかと心配する。きっとこの話の流れから、井上も嫌な予感を感じているに違いない。

「それで2月の中旬頃に名古屋でオフ会を開くことになって、そこに加茂田さん、美咲さん、朝霧さん、宮下君、そして逢沢君が集まったんです。初めて会って自己紹介をした時、驚きました。全員が理系の……工学分野の人間だったんです。皆……私と同じ様な理由でオカルトにのめり込んだんだと思います」

「思います、ですか?」

 井上の言葉に周防が鼻で笑ってからため息混じりに言った。

「詳しい理由は聞いてません……何となく分かるんです。あっ、でも逢沢君だけは違いました」

「どう違ったんですか?」

「彼は──心霊現象と科学を紐付け出来るのではないかという持論を展開していました」

「具体的にお願いできますか?」

 周防は立て続けに質問されたからか、少し間を取るために麦茶を飲んでから続きを話した。

「逢沢君は、重力と気温の関係性に着目していると言っていました。それで──ほら、皆さんも経験したり聞いたことはありませんか?怖い話を聞いたり怖い体験をすると寒気を感じるということを」

 それなら純武にも経験がある。小学生の夏休みの時、聖真と一緒に近所の寺の墓地で肝試しをしたことがある。その時、強烈な寒気を感じた純武は何を見た訳でもなく走って墓地から逃げ出し、釣られて聖真も走って付いてきた。電柱の蛍光灯の下で自分の腕を見ると鳥肌がびっしり立っていたことを今でも覚えている。宗一郎はそれに重力と気温が関係していると言いたかったということなのだろうか。

「彼は『馬鹿みたいな話でしょ?』と笑っていましたが、実は本気だったみたいで……」

 純武は嫌な予感がますます高まるのを感じながら井上と周防の話に聞き入っている。そして、頼むからこの予感が外れるようにと願う。

「どう本気だったんですか?」

「はっきり言うと、恐怖を感じさせるものには重力を変化させる力があって、それによって気温が変化し我々は寒さを感じるのではないか、という仮説を逢沢君は持っていたんです。彼はそれを実験で証明しようと私達に提案してきました」

(恐怖を感じさせるもの?幽霊、ということか?恐怖を感じることで寒気を感じるんじゃなくて、幽霊が重力に変化を加えて気温が変化して寒気を感じるっていうことか?)

「その提案をあなたを含めた5人は?」

「私達も研究者ですからね。言うまでも無く、彼の仮説に興味を持ってしまいました。職業病ですね。それに嫌気が差してオカルトに逃げたはずなんですけど……」

「実験は行われたんですか?」

 その質問だけには、微かに周防の顔が変化したことを純武は見逃さなかった。

「──はい。まず逢沢君は東海地域の心霊スポットに6人で赴こうと提案しました。実際に有名な所からそうでない所まで何ヶ所か行ったんです。最新のサーモグラフィーカメラを持って────」

「最新の?それは一般的なカメラとは違うんですか?」

「逢沢君曰く、一般的なサーモグラフィーカメラは1秒間に数十枚を撮影できるそうですが、彼の用意した最新のサーモグラフィーカメラは1秒間に300枚撮影出来ると言っていました。だから今までは計測できなかった僅かな時間の気温変化も測定出来ると」

「結果は?」

「────1ヶ所だけ……反応がありました。急速な気温低下が測定出来てしまったんです」

「それは──何処で?」

 純武はもう大方の回答の予測が出来ていた。周防よりも先に口を開く。その瞬間、何故周防の純武を見る目が普通に変わったのかを察した。井上は純武の記憶の話も周防にした。だからだ。

「郡上市……ですか?」

 周防は「そうよ」と優しく純武に言うと、井上は額と髪の毛の境い目をバリバリと掻き始めた。

「ここで……ここで繋がってくるか」

 嫌な予感が的中してしまったということを認めたくないのだ。その思いが井上のそこに痒みを生んだのだろう。

「周防さん。郡上市で更に実験をしたんですか?さっきの話だと重力と気温のはずですよね?重力はどう測定するんですか?」

 純武の連続した問いに微笑みながら答える。

「量子型絶対重力計という測定装置を何処からか持ってきて測定したの。結果は──ビンゴ。急速な気温低下が確認出来た場所で重力を測定したら、極めて短時間だけど異常な重力の変化を測定したわ。当然、サーモグラフィーカメラと並行して測定したけど、重力変化と急激な気温低下が──不規則な間隔でね。逢沢君の仮説では重力が気温に変化をもたらすというものだった。実際に観測できた結果も、時間差は重力変化の方が僅かに早かった。逢沢君の仮説が証明されたのよ」

「どんな場所で?」

「それが……何かの祠──みたいな物がある場所なの」

「詳しい場所は覚えていますか?」

 周防は「ええ」と言って地図アプリを開いて位置を教えてくれた。衛星写真で見ると木々の中にある場所だった。

「そこが、君の記憶の場所──なんだろうな……」

 井上が残念そうに純武を見る。

「雅巳君。まさか……この連続急死事件が幽霊によるもの、なんて考えているか?」

 純武は返答に困った。まさかこんなオカルト展開になるなどとは思ってもみなかった。しかし、今考えれば外傷も薬物も無く脳を熱傷させた方法が非科学的な現象であるという方が納得出来てしまう。当然だが非科学であれば何でも有りだ。

「それで──測定結果が出た後、逢沢君がその祠を調べてみたの。そこで不思議な体験をして……」

 まだ続きがあることを想定していなかった純武達は、慌てて周防の言葉に耳を傾ける。

「皆同じことを言っていたんだけど、逢沢君が祠を調べて始めてすぐだったわ。急に周りの暑さが弱まった気がしたの。さっき話した急速な気温低下とかじゃなくて何となく暑さがマシになったっていう感じで……でもその時は測定も終えていたから逢沢君もサーモグラフィーカメラを重力計を積んできたバンの中に置いてきちゃってて……一応もう一度祠を調べたんだけど、いつの間にか元の暑さに戻ってたのよ」

「暑さ、ですか。その実験はいつ?」

「去年の今頃。お昼すぎくらいだったかしら?私が渡米する2週間くらい前でした」

 「詳しい日付は分かりますかね?」

 「ちょっと待って下さい」

 スマホを取り出して数回指を動かし「7月20日です」とスケジュール管理アプリを開いた状態で井上に見せた。

 井上が質問している間、純武はどのタイミングで聞こうかと考えていたが、ここで聞くことに決めた。

「そこで、女の人に会いませんでしたか?」

 その答えの内容は聞かずとも分かっていると思ったが、それを否定するように周防が首を横に振った。

「会ったわよ……でも、あなたの記憶に出てきた白い服を着た成人女性じゃ無かったけどね。オーバオールを着た小さな女の子よ。『お姉さん達も遊びに来たの?』って言われたわ」

 純武も井上も予想が外れたことに呆気にとられた。ここまで色々と符合していたが、最も重要な言葉を残した女性の正体が分かると思った矢先にまた霞んでいく。

「え、と……僕の記憶にある女の人じゃない……んですね……では、どの時点でその女の子に会ったんですか?」

「さっきの周りの気温が下がった気がした後よ。いつの間にか居なくなっちゃってたけど……」

 大里がメモを取るボールペンの音が誇張されるようにリビングに響く。井上はまだ聞きたいことがあるのだろうが、予想していなかった話の連続にまだ信じられないといった様に動揺している。純武も井上の動静を伺うだけで質問しない。沈黙を破ったのは周防だった。

「──信じるのは難しいですよね。でも、あの実験に参加した皆が亡くなっているんだから……祟りみたいなものなんでしょうね……心霊現象の観測に成功してしまった祟り。知るべきでは無かったことを知ってしまった罰──」

 諦めるように言った周防の言葉から純武はふと思う。

「周防さんが渡米してから他の5人はまた集まったりしたんですかね?」

「ううん。美咲さんと逢沢君は独身だけど宮下君はまだ大学があるし、加茂田さんと朝霧さんは家庭があるから。もう中々集まれないって、あの日言ってたから集まれてないわ」

(なら、去年の今頃に実験をした日が6人が集まった最後なんか……もし、仮に、この急死が幽霊によるものだと仮定しよう────いかんな。またさっきみたいに視野が狭くなるところやった。まだ彼方瑠璃と一・ウェイクフィールドからの情報が無い。今ある情報を全部テーブルに置いてから考えた方が無難やな。出来たら皆で考えるんや)

「井上さん」

 額に拳を当てたまま純武の方へ首を回す。

「周防さんを保護してあげませんか?」

「私からもお願いしますッ!」

 周防が待ってましたと言わんばかりの勢いで井上に懇願する。昨日井上の連絡を受けて、彼女は「助けて下さい」と言っていた。正直、本当に幽霊が相手だとしたら助けることは不可能かもしれない。でも、知り合って、会話した人間がただ亡くなるなんてことは受け入れ難い。

「我々は、はなからそのつもりで来ました。ですが──幽霊が相手だとすると守り切る自信がありません……それでも宜しいですか?」

 哀しげな表情ではあるが、どこか安心したように周防は「お願いします」と頭を下げた。

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