第13話 2034年7月22日土曜日④
「君達が今年17歳だから、雅巳君の記憶が年長なら6歳で11年前の話ということになる。〈11年前の郡上市のキャンプ場もしくは付近にいた白い服を着た女〉が今回の5人の急死に関わっている可能性が高い」
一・ウェイクフィールドと彼方瑠璃に続く新たなパズルのピースが追加された。そんな感じのことを井上が言って更に続ける。
「よし。それじゃあ、今度は俺が情報を提示する番だな」
井上はそう言うと、持っていた青いA4ファイルをテーブルに出した。パラパラっとめくると、顔写真がグリップされている書類が数枚混じっているのが確認できた。その顔写真が挟まれている書類だけを取り出し、テーブルの上に置いていく。書類には個人情報が載っており、その中に「逢沢宗一郎」の名前があった。宗一郎の顔を初めて見たが、目と鼻の感じがなんとなく馬斗矢に似ていた。
「宗一郎君の情報はこっちの書類よりも、君達の方が詳しいだろう。まだ俺も殆ど読めていないが、まずは──この4人だ。時系列順に並べてある」
1枚目
氏名:加茂田明宏(かもだ あきひろ)
死亡確認時間:10月15日午前5時58分
年齢:58歳
住所:山梨県南アルプス市〇〇〇〇番地〇
職業:自営業(医療機器部品メーカー下請け)
家族構成:妻、子供3人
死亡状況:午前5時30分頃、ウォーキング中に急に倒れるところを周囲を通り掛かった通行人と、トラック運転手が目撃。周囲に不審な人物の報告無し。
2枚目
氏名:今永美咲(いまなが みさき)
死亡確認時間:12月22日午後9時32分
年齢:33歳
住所:東京都練馬区〇〇〇番地〇エピレンス練馬〇〇〇号室
職業:美容機器メーカー開発部門
家族構成:独身
死亡状況:午後9時10分頃、自宅近くのコンビニ店の駐車場にて急に倒れるところを、監視カメラでコンビニ店店長が目撃。店内には数人の客がおり、駐車中の車にも人が乗っていたが周囲に不審な人物の報告無し。
3枚目
氏名:朝霧寿徳(あさぎり としのり)
死亡確認時間:3月2日午前8時15分
年齢:44歳
住所:岩手県盛岡市〇〇〇〇番地〇〇
職業:半導体メーカー勤務
家族構成:妻、子供2人
死亡状況:午前7時50分頃、盛岡駅近くの路地にて急に倒れるところを複数の通行人が目撃。周囲に不審な人物の報告無し。
4枚目
氏名:宮下久留麻(みやした くるま)
死亡確認時間:5月20日午後1時01 分
年齢:23歳
住所:京都府京都市左京区〇〇〇〇番地〇〇
職業:大学生(京都大学工学研究科4年生)
家族構成:父、母
死亡状況:午後12時40分頃、京都市内の喫茶店〈しぐれ〉のテラス席にて、リモート通信で談笑中に何かに驚いた様子で倒れるところを周囲の客が目撃。周りに不審な人物の報告無し。
「この4人の死因はが言わずもがな、全て脳損傷だ。熱傷による──ね。特に頭頂葉の損傷が酷いということも共通している。検死結果に他の情報は無い。連続殺人だとしても殺害方法は不明だ。──というか、頭の中身だけを熱傷させる方法なんて考えるだけ今は無駄だろう。そこのところを踏まえて宜しく頼む」
それはそうだろうと、少なくとも純武は思った。馬斗矢の挙動が少しおかしく感じたが、急死を引き起こした方法を考えるよりも容疑者を見つける方が優先度は高いはずだ。
井上は、1人1人資料を回し回し読んでいる5人をまじまじと見ながら続けた。
「推理は得意じゃなくてね。“におい”で当たりは付けることは出来るが、解決まではぶっちゃけ捜査本部の会議頼みだったんだ。何でもいい。何か気付いたり、聞きたいことがあれば遠慮なく言ってくれ」
純武はすぐに手を挙げて井上を見据える。
「この方々の経歴って分かりますか?」
「経歴か?ちょっと待ってくれ」
ファイルの中を漁り1枚、2枚と机に資料が置かれる。それを見ながら井上が「これは──」と呟いた。
「見てくれ」
純武は書類を手に取ると、目を左から右に動かしていく。すると、ある共通点があった。
「この4人と馬斗矢のお兄さん、全員が大学で工学系の学部ですね」
菜々子が「どれどれ?」と書類を盗み見る。
「というかこれ──名門大学ばっかりじゃん!東大、京大、筑波大、東北大学……あと名大」
馬斗矢をチラッと確認すると、誰の資料かは分からないが食い入るように読んでおり、菜々子の言葉は聞こえていないみたいだ。
「へー!この今永美咲ってお姉さん、東大ってすげー!」
「この宮下久留麻って人、23歳で大学4年生ってどういうことなのかな?」
足立と馬斗矢が時間差で言った。足立のは独り言なので純武はスルーした。
「経歴には、2年生の時に1年間アメリカに留学って書かれとるから休学してたんやろうね」
井上は下を向いて静かに思案している。全員が工学系だということをこちらが話してもリアクションが無いのは、とっくに気付いていたからだろう。
「工学系だからって、それが何だったてんだ?」
そう自問し井上は後頭部を指1本でポリポリ掻く。確かにそうである。学歴が酷似しているだけで年齢も職業もバラバラ、在籍した大学も違う。
「ねぇねぇ〜」
聖真が書類に一通り目を通してから馬斗矢を呼ぶ。「なんだい?」と書類から目を離さず返事をした。
「まさかだけどさ〜、お兄さんとこの人達って連絡取り合ってたりしない?」
首の動きがシンクロする。それは井上も同じだ。聖真に視線が集まるが「あっちあっち」と聖真が馬斗矢を指す。
急いで宗一郎の青いスマホを取り出すと、書類の名前を見ながらメッセージ履歴のフィルター機能を操作する。
「あ────あったよ平っちッ!」
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