第6話 2034年7月18日火曜日②

2034年7月18日火曜日

 下校のおり、友人の足立と並んで自転車を漕ぎながら、流行りのオンライン狩猟ゲームについて話している。同じクラスになってから2人で一緒に帰ることが日課になった。

 その狩猟ゲームは、ストーリーを進めるに連れて難易度が上がる代わりに貴重な素材が手に入るというものだ。馬斗矢は春休み頃から始めていたためすでにストーリーはクリアしており、後は欲しい武器や防具などに必要な素材を集めるだけとなっている。しかし、足立は期末試験が終わってからようやく親に買ってもらったので、まだまだ序盤で装備が弱い。それで、馬斗矢に手伝ってもらいストーリーを手早く進め、馬斗矢と同じ難易度に追い付きたいとのことだ。先週末も急いで週末の課題を終わらせ、2人ほぼ徹夜でゲームをした。足立の道のりはまだまだ遠いが、モチベーションが高いので進み具合は順調だ。8月に入る頃には同じ高難易度クエストを2人で挑戦できるだろうと馬斗矢は思っている。

「じゃあまた準備できたら連絡くれ!」

 足立がゲームを買ってから、毎日同じセリフを別れ際に言っている気がする。頼られて悪い気はしないので、喜んで付き合おうと馬斗矢は思う。

「おっけー!それじゃあねー!」

 家に到着すると、いつもは有るはずの母親の赤い軽自動車が無かった。代わりに白いSUVの車が隣の車庫に停まっている。父親の車だ。夕方に父親が帰って来たことなど記憶に無いが、特に気にすることも無く自転車を降りる。玄関横のスペースに自転車を停め、鍵を掛ける。カチャカチャと鍵が出す金属音に反応するように、家の中からも物音が聞こえる。玄関を開けると父親が目を充血させ、無表情で馬斗矢を出迎えた。

「ただいま。こんな時間に父さんどうしたの?」

 父親は僅かに力を入れて目を伏せ、口元を震わせている。自分が何か悪いことをしたのだろうか。ひょっとして、結構前に兄ちゃんから貰った18禁のゲームが見つかってしまったのか。漫画で出てきたやつみたいに引き出しを二重底にしてしまったのに。やはり燃えるようにも細工するべきだったのか!などと、その他にも自分に非がありそうな心当たりを頭の中で箇条書きにして考えていたが、父親はそのどれにも当てはまらないことを馬斗矢に言った。

「宗一郎が……ぐっ……しっ、死んだッ」

 無理に力を入れている父親の顔。目頭から目尻から、血が溢れているのではないかという勢いで、水が流れている。冗談等では無い。あれは涙なのだろうか。その前に、何故父親は泣いているのだろうか。混乱する意識の中で自分の右頬に痒みを感じた。

「────あ」

 頬を搔こうとした指に、何かが半袖で露出した腕まで伝わる。馬斗矢はそれが始めは何なのか分からなかったが、段々と自身の涙であることを認識した。

 途端に何かが壊れ、悲鳴にも似た声を出し、父親の足下にしがみついた。

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