第3話 2034年7月21日金曜日①
2034年7月21日金曜日(終業式)
〈2-2〉というプレートが飛び出している教室の後ろの引き戸の前に3人が立ち、聖真が開ける。普段であれば、開け放った扉の内からガヤガヤという話し声が聞こえるのだが違っていた。静かだったのだ。純武達は違和感を感じ取る。教室内に入ると、真ん中の席の辺りに多くのクラスメイトが集まって一人の生徒を囲っていた。
「どしたの皆〜?」
聖真独特の軽い口調。声量は1対1の時と同じなのだろうが、室内が静かであるため全員に聞き渡る。すると、窓側の席に横向きの姿勢で座る足立が、力無く答えた。
「馬斗矢のお兄さんが……亡くなったんだって────」
聖真は眉を寄せて稀に見る真剣な顔付きになる。元々整った顔立ちなので、よりイケメンと言える表情になる。純武は自分も今こんな顔をしているのだろうか、とクラスメイトの訃報に戸惑ってつい場違いな考えをしてしまう。3人で顔を見合わせると、遅れて菜々子の眉が八の字に下がり恐れを抱いているような顔になる。
クラスメイトが囲む中心には
(まさか兄弟が亡くなったなんて……ということは、一昨日と昨日に通夜と葬式があったんか?先生も話しづらかったはずや。いや、親が先生から伝えんで欲しいって頼んだんかもしれん。待て、あかん。何て声をかけたら良い?1人っ子の俺に何が言える?)
突然のことで動転し、自分の席を前にして鞄を机に置いたまま純武は立ち尽くす。しかし、聖真は囲いのクラスメイトを掻き分けて進み、馬斗矢の背中に手をそっと添えてポンッポンッと叩き「うぃ〜す」と言い自然な動作で自分の席に着いた。馬斗矢は顔を上げて小さく「うぃす、平っち」と答える。
何も出来ず、何も言えなかった。
馬斗矢の丸い背中を見つめることしか出来なかった純武は、「“考え病”────か」と自分を侮蔑し、下唇を噛んだ。
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