27.陽に隠れた陰
円卓の間で話し合う【剣聖】と【護心】。
ふと【剣聖】が気づいた瞬間、【天魔】は椅子から立ち上がった。そして、そのまま部屋を出て行こうとした【天魔】へ、【剣聖】は質問を投げかけた。
「【天魔】、どうした?」
【剣聖】の方を見て【天魔】は答えた。
「結界の確認をしてくるわ。彼と戦う事になるとしたら最悪この都市が戦場になる可能性もあるはずよね?万全を期すためにも少し調べてくるわ」
「……それもそうだな」
「というわけよ、【極藝】。手伝いなさい」
「はいはーい、了解しましたよ天ちゃん」
「天ちゃん言うな」
【極藝】に視線を向けることも無く部屋から出て行った【天魔】。その後を追うように、【極藝】も部屋を出ようとした、その時。【護心】の口元が動いている事に気づいた。
【剣聖】には見えないように、【極藝】に伝えるように。
『頼んだぞ』
【極藝】は【剣聖】にその事実を気取られる事なく、部屋を出て行った。
ーー◆ーー
「……で、何か僕に話でもあるのかな?天ちゃん」
部屋から出て、しばらく歩いた所で【極藝】は【天魔】に追いついた。
少し先で窓から差し込む月光を背に、【天魔】は壁にもたれて立っていた。呼び方を変えない【極藝】に溜め息を吐きつつ、【天魔】は言った。
「分かってるでしょう?」
「まあね。……剣さんは、少し甘すぎる。彼と、話し合いで解決出来る可能性をまだ探ってる」
まあ、そんなところが魅力なんだけどね、と戯けたように【極藝】は朗らかに笑う。
しかし【天魔】が【極藝】に目を向けた途端、ふざけた態度が嘘のような重苦しい雰囲気を纏っていた。
「交渉が失敗した時、どうするか、話し合いたいんだろう?」
「……そうね」
【剣聖】の前で、殺害を前提とした話し合いは出来ない。良くも悪くも、【剣聖】は優しすぎる。
だからこそ、【剣聖】を除いた四人の英雄はその欠点を補うようにいつも立ち回る。今いない【真影】と【護心】も、同じ考えを持っていた。
「あ、そうだ。護心の旦那も分かってるみたいだったよ。口パクで言われたーー『頼んだぞ』ーーだって。全く、たった一言で通じると思ってるんだから」
「でも、通じてるのよね」
「付き合い長いしね。ま、そこはどうでもいい。……どうする?真剣な話、彼をどうにか出来ると思う?」
その言葉に、【天魔】は笑みを見せた。
「一人なら、無理よ。二人でも、無理。だから、五人全員でどうにかする」
「……あれだね、言わないようにって思ってたけどさ。天ちゃん、剣さんに似てきたね」
「……は?」
思わず【天魔】は【極藝】を睨み付けた。訳が分からない言葉に対する苛立ちを顕に、殺さんばかりの視線を【極藝】へと向けるが、その当人はやれやれ、と言い出しそうな様子で告げた。
「いやさ、前までの天ちゃんだったら『私がどうにかするわ』とか言いそうなのに、今は『みんなで力を合わせましょう』だろ?変わったねえ」
「……別に、そうは言ってない」
「へえ?……あ、ちょっと待って冗談だから。部屋に戻ろうとしないでよ」
思わず揶揄ってしまった【極藝】は、【天魔】を呼び止め、そして真剣な面持ちを見せた。
「凄く真面目に話をすると。もし剣さんが説得に失敗した時、護心の旦那と天ちゃんは良いとして、僕はどう動くべきか、を考えるべきだね」
五人の英雄。
最も戦闘能力が低いのは自分だ、と暗に言いながらも【極藝】本人がその事を気にしている様子はない。
それぞれが一つの特技を極めた五人の英雄。
【極藝】だけはその中でも例外。錬金術を極めたが、それは才能があったからではない。努力による、強引な力技だった。
その自覚があるからこそ、【極藝】は自分自身の実力が見えていた。
故に、【天魔】と【極藝】は話し合っている。確実に起こるであろう、彼との戦いの対策を。
「ええ。……ただ、それについては考えがあるわ。貴方は私を信じて」
「……信じて、ねえ」
「彼を殺す方法は、いくつかある。……【剣聖】はきっと、その方法を好まない。でも【極藝】、貴方なら私の策がどれだけ有効か、よく分かるはず。私を信じなさい」
【天魔】と【極藝】。
二人の間で、密かな戦略が練られようとしていた。
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