12.英雄達の会合 前
彼が【牢獄】送られた後。
【剣聖】、【天魔】、【極藝】の三人は円卓の置かれた部屋に集った。そこは、彼が【剣聖】の案内に従って通った部屋。【極藝】だけが座っていた円卓の周りの椅子に、【剣聖】と【天魔】はいた。
「んじゃあ、恒例の会合を始めようか!!いつも通り、【護心】の旦那と僕の愛しい愛しい影ちゃんは居ません!!はっは、五人中三人での会議、開始!!」
異常にテンションの高い男、【極藝】は立ち上がってそう宣言した。
円卓に座る、二人の人物は【剣聖】と【天魔】。円卓に用意された五つの席のうち、二つは空白。即ち、【護心】と【真影】の二人の欠席を示していた。
半数近くが欠席しているのにも関わらず声高々な【極藝】の宣言に、【天魔】は半笑いで【極藝】へと声を掛けた。
「相変わらず喧しいわね、【極藝】。そんなのだから【真影】に避けられてるって理解出来ないのかしら?」
「あっはっは!!思いを真摯に伝える事は大切な事だよ、【天魔】!!まあ、君のようにそれとなくアプローチをかけて少しずーつ少しずーつ距離を詰める、勇気の無い人間には決して分かりようもない事だったかな?ごめんね?」
【天魔】の煽るような言動に、【極藝】もヘラヘラとした笑みと共に煽り返した。
次の瞬間。
「やるの?」
「やってやろうか?」
一瞬で戦闘姿勢へと移行した両者。
立ち上がって両手に魔法陣を形成し、魔術を構える【天魔】。
右手に長い筒状の武器、長銃を【天魔】に向け、左手に片手サイズの筒状の武器、拳銃を構えた【極藝】。
一瞬で戦闘が始まりかけたその時、静かに【剣聖】が言った。
「そこまでにしろ。戯れるのは構わないが、限度は守れ」
「はいはーい。分かりましたよ、剣さん」
「……ふん」
大人しく【天魔】と【極藝】は【剣聖】に従った。
この様子から分かるように、五人の英雄は全員の相性が良いというわけではない。
単純な戦闘方法の噛み合いや、性格の不一致。特に【天魔】と【極藝】の仲は最悪であった。
「早速だが、定期報告を。【極藝】」
【剣聖】に名を呼ばれた【極藝】は右手を上げて了承の意を示した。
「了解。まずは、都市外部の防衛機構について。今回の定期点検に僕も参加して確認した。一切異常なし。緊急起動も念の為に行ったけど、動作不良も無いし、確実に動作したよ」
ただ、と【極藝】は続けた。
「内部の防衛機構は少し異常が出たね。少し前から危険状態って判断されてるみたいで今修正中」
「原因は分かっているのか?」
「隠さず言っちゃうと、剣さんと件の彼の衝突の余韻だねえ。まさか建物の中で起こった衝撃が、都市内部の防衛機構に影響及ぼすとは思っても無かったよ」
「……それはすまなかった」
「いいよ、別に。直すぐらい、すぐにどうにかなるから」
ヒラヒラと手を振りながら軽く言った【極藝】は、しかし本心ではこの事態を深刻に捉えていた。
この都市の防衛機構は二段階に別れている。
一段目は、都市の外部機構。
基本的には対魔物想定の防衛機能。【剣聖】や【天魔】の補助的な役割を狙って建設された機構。
二段目は、都市の内部機構。
こちらは一段目と違い、基本的には対人間想定の防衛機能。とはいえ、対魔物でも問題無く起動する。
都市内へと侵入が可能、つまり人型や小型の魔物、悪意を持って侵入する人間への対応を考えた機構。
問題は、内部機構が起動した事。
【剣聖】と件の彼との戦闘の余波。
【剣聖】がやり過ぎた際に、起動した事はあったな、と【極藝】は呟く。彼と【剣聖】の戦闘を見たわけではない。
だが以前に起動した時は、【剣聖】が本気を出した時だった。それから【剣聖】は多少なりとも力を伸ばしており、そして【極藝】の組んだ機構も改善が進んでいた。
その事実から、彼の危険性を【極藝】は極めて高く見積もっていた。
ぶつぶつと呟く【極藝】。それが【極藝】が考え込む時の癖であると知っている【剣聖】は【極藝】の事は一旦置いておき、【天魔】へ声をかけた。
「【天魔】」
「こっちも問題無しよ。各種結界に異常なし。都市部、遺跡、牢獄。何れの結界も問題はない」
「……本当に、か?」
「貴方が気にしている【牢獄】は特に確認してるわ。異常なし、それ以外に言うことはない」
自信を持って【天魔】は答えた。
それに、と【天魔】は【剣聖】が意図的に避けているであろう話題を突きつけた。
「もっと他に考えるべき事があるでしょう」
「……何の話だ」
「分かってるくせに。……あの男の目的よ」
その【天魔】の言葉に、【極藝】の意識が思考の海から一瞬で引き戻された。
「え?件の記憶喪失の彼かい?え?目的?どういうことだ、剣さん!?もしかして、彼と何か話を!?」
「ああもう、喧しい……これを見なさい」
体を乗り出すようにして捲し立てる【極藝】。その様子に心底鬱陶しいと言わんばかりに【天魔】は魔術で映像を投影した。
ーー◆ーー
『俺の求めるものはーー
【この世界の存亡を握る鍵】だ』
【剣聖】にとっては再び聞くこととなった、映像の中の彼の答え。
「へえ…………」
【極藝】の顔から軽薄な笑みは消えていた。真剣に思考するその様子はまるで人が変わったようにも見える。
「怪しいね。そもそも、彼の言う事を信用しても良いのかな?真実を言っている保証は無い」
「おそらく、彼は嘘は言っていないだろう」
「だろうね。だけど、彼が答えたのは『求めているもの』だ。それが、命をかけてでも一番欲しいのか、それとも優先順位は低いけど求めてるのか。そこも分からない」
「……嘘ではないが、誤魔化した、と?」
【極藝】は頭を傾ける。
「問題はな〜……ぶっちゃけ、見てる感じこの世界に何かやろうって気がしない。放置でも良さそうだけど」
「私はそうは思わない」
【天魔】は確信を持って答えた。【極藝】の意見に賛成したくない、という考えはともかく、【天魔】彼に対する不信感は底なしだった。
「あのさあ、天ちゃん」
「その呼び方はやめて」
「そろそろ教えてくれない?
ーー【予知魔術】で何を見たのか」
じっと【天魔】を見つめる【極藝】。しかし、【天魔】は首を振った。
「駄目よ」
「……だったらもう彼を直接探るしかないけど、影ちゃんは居ない、護心の旦那もいない。はてさて、どうしたものかな」
「アナタが態度を改めれば良い」
円卓の五つの椅子。
三人しか居なかったはずのその場に、まるで最初から居たかのようにその人物は椅子に座っていた。
全身黒で統一された服。
【真影】がそこにいた。
「来たか、【真影】」
「……ええ。不本意ながら」
「あら、いつから来てたのかしら?」
「映像を見始める前から」
【剣聖】の呼びかけに【真影】は不満そうな声を隠さなかった。
【真影】はいつも会議に参加しない。それは、参加する事にあまりメリットが無いからだ。都市を影から見守る【真影】にとって、時間は貴重なもの。会議の為に長時間目を離したくは無かった。
そして、もう一つの理由。
「やあ影ちゃん!久しぶりだね!」
「……」
【真影】が現れたと同時、あからさまにテンションの上がった【極藝】が満面の笑みを浮かべて彼女に歩み寄った。
両手を広げ、まるで【真影】に抱きつこうとするかのような姿勢を取る【極藝】。
その様子とは真反対に、【真影】は椅子に座ったまま【極藝】に冷ややかな瞳を向けていた。
「影ちゃん?ほら」
「……何が『ほら』よ。ふざけないで」
「僕は真剣なんだけどなぁ……」
【真影】と【極藝】のいつもと同じやり取り。その様子を見ていた【剣聖】は苦笑しながら二人の会話に割り込んだ。
「すまないが、そこまでにしてくれ。件の彼の狙いを知りたい。一緒に考えてくれ」
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