第3話 新たな仲間と不穏な影

村での平穏な日々が続いていた。しかし、エリナが話していた「何かおかしい」という言葉が、俺の心にひっかかっていた。魔物が出現したあの日以来、村周辺の状況は変わりつつあるようだ。農作業や村の手伝いをしているときにも、村人たちの間で「また魔物を見た」という噂が少しずつ広がっているのがわかる。


「ハルトさん、少しお話があるんですけど……」


夕方、エリナが畑仕事を終えたあと、少し深刻な表情で俺に話しかけてきた。村の端にある小高い丘の上で、ミリアも一緒だ。彼女も何か言いたげに俺を見つめている。


「どうしたんだ?また何かあったのか?」


俺が尋ねると、エリナは小さく頷いてから話し始めた。


「最近、村の近くでまた魔物の目撃情報が増えているの。しかも、今度は一匹だけじゃなくて、群れで現れているらしいわ」


「群れ……それはまずいな」


一匹の魔物なら俺の力で簡単に倒せるかもしれないが、群れとなると話は別だ。村に被害が出る前に、何とかしなければならないだろう。


「村の周りに何か異変があるのは間違いないわ。ミリアも何か感じているみたい」


俺はミリアの方に目を向けると、彼女は少しうつむきながらも、小さな声で話し始めた。


「……私、最近よく夢を見るんです。森の奥で何か……何か悪いものが目を覚ましたみたいな夢……」


「悪いもの?」


ミリアの話に耳を傾けると、その夢が単なる予感ではない気がしてきた。この世界には魔物や魔法の力が存在している。もしかしたら、彼女は何か重要なことを感じ取っているのかもしれない。


「わかった。少し様子を見てみよう。何か異変があるなら、俺が確かめてくる」


俺はそう言って、二人に微笑みかけた。エリナは少し不安そうに見ていたが、やがて頷いた。


「……ありがとう、ハルトさん。でも、無理はしないで。私たちも一緒に行くわ」


「いや、ここは俺一人で行く方がいいだろう。危険なことに巻き込むわけにはいかないからな」


エリナはしばらく考えていたが、最後には俺の言葉を受け入れてくれた。ミリアも心配そうだったが、俺を信じてくれている様子だ。


その夜、俺は一人で村の外れにある森へと向かった。月明かりが森を照らし、静寂が広がっている。だが、その静けさが逆に不気味さを感じさせる。


森を進んでいると、やがて遠くから低い唸り声が聞こえてきた。魔物の群れがこの先にいるのだろうか。慎重に進むと、木々の間から異様な光景が見えた。


「……あれは?」


森の開けた場所に、何か黒い影のようなものが蠢いている。魔物の群れだ。彼らは不規則に動き回り、まるで何かを待っているかのようにじっとしている。その中央に、異様に大きな魔物が立ち上がっていた。普通の魔物とは違う、圧倒的な存在感を放っている。


「これは……やばいな」


俺は剣を抜き、魔物たちに近づく準備をした。だが、その時、背後から誰かが近づいてくる気配がした。


「……誰だ!」


振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。年齢は俺より少し上だろうか。長い黒髪を持ち、戦士のような装備を身につけている。彼女の目は冷静そのもので、俺をじっと見つめている。


「あなた、ハルトという名の冒険者ね?私もあなたと同じように、この異変を調べに来たわ」


その女性は、静かながらも力強い声でそう言った。どうやら彼女も冒険者らしいが、村の人間ではなさそうだ。


「俺はハルトだ。あんたは?」


「私はレイナ。この辺りで魔物の動きを追っている冒険者よ」


レイナ……彼女は俺とは違うタイプの冒険者のようだ。冷静で鋭い視線は、これまでに多くの戦いを経験してきたことを物語っている。


「魔物がこんなに集まっているのは異常だ。何かが彼らを操っているのかもしれない」


レイナは鋭くそう言い、俺と同じように魔物の群れを観察していた。確かに、あの大きな魔物が何かしらの指示を出しているように見える。


「一緒に調査しないか?このままでは村が危険だ」


俺が提案すると、彼女は少し考え込んだ後、頷いた。


「いいわ。あなたの力があれば、ここを突破できるかもしれない」


俺たちは慎重に魔物たちに接近し、まずは小さな魔物たちを片付けることにした。剣を構えた俺は、再びその力を試す瞬間を迎えた。素早く、そして確実に魔物を一撃で斬り倒していく。


「さすがね。噂以上だわ」


レイナは俺の戦いぶりを見て、驚いた様子だった。だが、彼女もまた非常に高い戦闘技術を持っている。魔物の群れの中を軽やかに駆け抜け、次々に敵を倒していく姿は圧巻だった。


そして、ついに大きな魔物がこちらに気づき、咆哮を上げた。その声は空気を震わせ、まるで周囲全体が揺れるようだ。


「気をつけろ!あいつはただの魔物じゃない!」


レイナが叫ぶと同時に、俺はその魔物に突進した。巨大な体に圧倒されそうになるが、俺の剣が光を放ち、まっすぐにその胴体に向かって突き進む。


「はあああっ!」


剣が魔物の体に突き刺さり、その瞬間、爆発的な力が放たれた。魔物はその場に崩れ落ち、まるで力が抜けたかのように消滅していった。


「……やったか?」


俺は息を整えながら、消えゆく魔物の姿を見つめる。レイナも同様に剣を構えたまま、慎重に周囲を見回していた。


「終わったようね。あなた、本当にただ者じゃないわね」


彼女は満足そうに笑みを浮かべ、俺の方に歩み寄ってきた。


「ありがとう。あなたのおかげで、この森の危機は一時的に収まったわ」


「いや、あんたの助けがあってこそだ。レイナ、これからどうする?」


俺がそう尋ねると、彼女は少し考えた後、微笑んで答えた。


「しばらくこの村に滞在するつもりよ。まだ解決していない問題があるかもしれないからね。もし、また何かあったら、私に知らせて」


そう言い残し、レイナは再び森の奥へと消えていった。


村へ戻ると、エリナとミリアが心配そうに待っていた。俺が無事に帰ったことを知り、二人は安堵の表情を浮かべた。


「無事でよかった、ハルトさん……」


エリナがそう言って、俺に近づいてきた。俺は彼女たちに簡単な説明をし、森の危機は一時的に去ったことを伝えた。


だが、まだ終わりではない。レイナが言っていた通り、何か大きな力が動き始めている。それを突き止めるためには、もっと多くの仲間が必要になるかもしれない。

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