第4話 村を包む不安と新たな依頼
森での戦いから数日が経ったが、村にはまだ不安の影が漂っていた。俺たちが倒した魔物の群れは一時的なものだったかもしれないが、根本的な問題は解決していない。村の人々もそれを感じているのか、いつも以上に緊張感がある。
エリナもミリアも、あの日から俺の行動により一層注意を払うようになった。特にミリアは、森の奥で何かを感じ取っているようで、何度か「またあの夢を見た」と口にしていた。
「ハルトさん、大丈夫ですか?」
夕食を終えたあと、エリナが俺の隣に座り、心配そうに声をかけてきた。彼女の優しい声は、少し疲れた心を癒してくれる。
「ああ、大丈夫だよ。あの魔物のことは気にするな。何かあれば俺が必ず対処する」
俺はそう言って、エリナを安心させようと微笑んだが、彼女は納得していない様子だった。
「それでも、ハルトさん一人で全部背負う必要はないんです。私たちも……」
エリナが言葉を詰まらせたとき、ミリアがそっと口を開いた。
「……私、まだ悪い予感がするんです。夢の中で……あの森の奥に、もっと大きなものが潜んでいる気がして……」
彼女の言葉に、エリナも俺も一瞬緊張が走った。ミリアの夢が単なる不安ではないことは、この数日で明らかだった。彼女は何かを感じ取っている。
「その夢、どんなものなんだ?」
俺が尋ねると、ミリアは少しためらいながらも、夢の内容を話し始めた。
「……森の奥で、大きな影が動いていて、その影がすごく恐ろしい……。私が近づこうとすると、いつも急に目が覚めちゃうんです。でも、その影がどんどん近づいてくる感じがして……」
その話を聞くと、俺の中に何かが引っかかるような感覚が広がった。森の奥に何かがある——それはただの予感ではなく、現実に起きていることかもしれない。
次の日、村の長老が俺のところに訪ねてきた。彼は村の安全を守るため、これまでの経験を元にいろいろな対応策を考えてきたようだが、今回の事態には不安を隠せない様子だった。
「ハルト君、ちょっと話があるんじゃが、時間はあるかね?」
「もちろんです。何か問題が?」
長老は俺に座るように促し、彼の家の中で話をすることになった。彼の話は、やはり村周辺の魔物の動向についてだった。
「最近、魔物の数が増えてきておるのは、もう感じとるじゃろう。どうやら、村の近くの洞窟に何かが巣食っておるらしい」
「洞窟……?それはどの辺りにあるんですか?」
俺はすぐに反応した。洞窟が魔物たちの巣になっているなら、そこに原因がある可能性が高い。
「村から北へ少し進んだところじゃが、あまり村人には知られておらん場所じゃ。最近、何人かの冒険者が探索に向かったが、帰ってこなかったそうじゃ……」
長老の言葉は重かった。村の周辺にはまだ多くの未開の場所が残されているが、その中でも洞窟は特に危険な場所として知られている。しかし、冒険者が帰ってこないというのは、ただ事ではない。
「俺が行って確かめてみます。何か分かればすぐに報告します」
そう言って、俺は立ち上がった。長老は深く頷き、感謝の言葉を述べた。
夕方、俺はエリナとミリアにこれからの予定を話した。彼女たちも当然心配そうな顔をしていたが、俺が行くことを止めようとはしなかった。
「……無茶はしないでくださいね、ハルトさん。私たちも力になりたいけど……」
エリナの言葉に、俺は優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。俺はこういうことには慣れてるからな。戻ったらまた一緒に夕飯を食べよう」
エリナは少し安心したように頷き、ミリアも小さく微笑んだ。
「気をつけて……また夢の中で、何か分かったら教えますね」
ミリアのその言葉には、彼女なりの力強さがあった。彼女もただ待っているだけではなく、何かしら自分の役割を果たそうとしているのだ。
次の日の朝早く、俺は村を出発し、洞窟へと向かった。道中は静かで、まるでこれからの嵐の前触れのような不気味な静けさが漂っている。
洞窟の入り口にたどり着くと、その異様な空気感が肌にまとわりつくようだった。暗い洞窟の中からは、何かが俺を待っているような気配がする。
「さて、行くか……」
俺は剣を抜き、洞窟の中に足を踏み入れた。暗闇の中、耳を澄ますと、かすかな水滴の音が響いている。だが、その音の奥には、何か別の音も混じっていた。低い唸り声のような、不気味な響き。
洞窟の中を進んでいくと、やがて広い空間に出た。そこには何か巨大なものがうごめいている影が見えた。
「……お前が、ここを支配しているのか?」
その巨大な影は、まるで俺の言葉に反応するかのように動き出し、暗闇の中から姿を現した。
「っ……!」
その姿は、今までに見たことがないほど巨大で異形の魔物だった。体全体が暗黒に包まれており、無数の目が俺を見つめている。
「これは……ただの魔物じゃないな」
俺は剣を構え、目の前の魔物に対峙した。この戦いを乗り越えなければ、村に平和は戻らない。全力で挑むしかない。
「行くぞ……!」
剣を振りかざし、俺は魔物に向かって突進した。
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