第2話 村の歓迎と新たな日常
「村までもう少しよ。ハルトさん、本当にありがとうございます」
エリナが俺の隣で微笑みながら言う。ミリアはまだ少し怯えた様子だが、時折俺の方をちらりと見上げては、小さく微笑んでいる。彼女たちが住む村は、どうやらこの森の近くにあるらしい。俺たちはしばらく歩き続け、ついに木々の隙間から村らしき風景が見えてきた。
「ここが私たちの村、フェリスです」
フェリスという名の村は、想像していたよりも小さいが、木造の家々が整然と並んでいて穏やかな雰囲気だ。子どもたちが遊ぶ姿や、畑で作業をする人々が見られる。のどかで平和な場所だ。
「ここならしばらく安全そうだな」
俺は村の入り口に立ち、深呼吸をする。都会の喧騒とはまるで違う、落ち着いた空気が心地よい。だが、この平和な村に魔物が現れるとは、何かがおかしい気がする。
「ハルトさん、村長に挨拶しに行きましょう。今日のことを報告しないと」
エリナの提案に従い、村の中心にある一際大きな家へ向かう。村長の家だろうか。俺は扉をノックし、中から出てきたのは、白髪の老人だった。
「おお、エリナ、ミリア!無事だったか!心配しておったぞ」
「はい、ハルトさんのおかげです」
エリナが俺のことを紹介すると、村長は驚いたように俺を見上げた。俺よりもだいぶ小柄なその老人は、しわだらけの顔に笑みを浮かべている。
「おお、そなたがハルト殿か。助けてくれて感謝する。わしはこの村の村長、エルヴィンじゃ」
村長は丁寧に頭を下げる。俺は少し照れくさくなりながらも、その姿勢に応じて軽く頭を下げた。
「いや、俺はただ通りかかっただけです。それに、魔物を倒しただけで」
「そう言うが、森に現れた魔物は最近では見かけぬほど凶暴なものでな……一人でそれを退治するとは、そなた、ただ者ではないな」
村長は俺を疑いの目で見ることはなく、むしろ興味深そうに観察している様子だ。俺はそれとなく話をはぐらかし、あまり目立たないようにしようと努めた。
「俺もまだこの世界のことはよくわからないんです。しばらくここで休ませてもらえませんか?」
「もちろんじゃ。そなたのような力強い若者がいれば、この村も安心じゃ。ゆっくりと休んでくれ」
こうして、俺はしばらくの間フェリス村に滞在することになった。エリナとミリアは村長に詳しい事情を説明している間、俺は外でその様子を待つことにした。
数日が経ち、村での生活にも少しずつ慣れてきた。村人たちは俺のことを「外から来た冒険者」として親切に接してくれた。エリナやミリアとも顔を合わせることが多くなり、少しずつ打ち解けていく。特にミリアは、最初は俺に対して少し怖がっていたが、次第に笑顔を見せてくれるようになった。
「ハルトさん、今日も手伝ってくれる?」
エリナが畑仕事をしながら、俺に声をかける。最近は、村の農作業を手伝うのが日課になっていた。冒険者としての力はあるが、今は平穏な日常が心地よい。
「もちろん。今日は何をするんだ?」
「今日は種まきよ。ミリアも一緒にやるから、よろしくね」
ミリアは俺の隣で小さく頷いた。「うん、よろしく、ハルトさん」
二人と一緒に作業をしていると、次第に村の住人たちとも打ち解け、村の生活にも慣れ始めていた。だが、その一方で俺の中には、いつかはこの村を出て、もっと広い世界を見てみたいという思いも芽生え始めていた。
「そういえば、エリナ。魔物のことなんだけど、あんなのが頻繁に現れるのか?」
俺はふと、あの日襲ってきた魔物のことを思い出し、エリナに尋ねた。彼女は少し眉をひそめて、答えた。
「いいえ、あんな魔物は滅多に出ないわ。最近は村の周りも平和だったんだけど……何かおかしいのよ」
「おかしい?」
「そう。あの魔物、森の奥に棲むはずなのに、どうしてあんな近くに現れたのか……何か変なことが起きてるのかもしれないわ」
エリナの言葉に、俺も少し警戒心を抱いた。どうやら、この村の周りで何か異変が起きているのかもしれない。だが、それが何なのかはまだわからない。
「気をつけた方がいいな。何かあったらすぐに知らせてくれ」
「うん、ありがとう。ハルトさんがいてくれると心強いわ」
彼女が俺に微笑む。ミリアも俺を見上げて、にこりと笑う。彼女たちとの日常は、今のところ穏やかだ。しかし、この静かな村にも、何か大きな嵐が迫っている気がしてならない。
夜になり、俺は一人で星空を見上げていた。空一面に広がる無数の星々は、この異世界がどれだけ広大であるかを教えてくれる。今は村で平和な日々を送っているが、俺は冒険者だ。この先、もっと大きな冒険が待っているかもしれない。
「この力があれば、どんなことでもできそうだな」
俺は自分の手を見つめ、つぶやいた。この異世界で、俺の力がどこまで通用するのか、まだ試していない。だが、その時が来たら――俺はきっと、この世界で名を轟かせる存在になるだろう。
そして、それはそう遠くない未来に訪れるのかもしれない。
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