転生から始まる冒険者生活

森川 朔

第1話 転生から始まる冒険者生活

「……ここはどこだ?」


俺は目を開けると、見知らぬ森の中に倒れていた。薄暗い林の中からかすかに差し込む太陽の光が、やけに眩しい。頭の中がぐるぐると回る。最後の記憶は、平凡なサラリーマンとしての生活だったはず。だが、今の俺は――確かにそれとは違う場所にいる。


「もしかして、これが噂の異世界転生ってやつか?」


自分の手を見ると、確かに元の体ではないことに気づく。強靭な筋肉がついていて、まるでアニメの主人公みたいな肉体だ。服装も、普通のスーツ姿から一転して、冒険者風の軽装備に変わっている。さらに、腰には見慣れない剣が吊るされていた。


「剣……?」


試しにその剣を抜いてみる。驚くほど軽い。そして、妙にしっくりと手になじむ感覚がある。剣術なんてこれまで一度も経験したことがないはずなのに、何かが体に染みついているような感覚だ。


「なんなんだ、これ……」


周囲を見回すと、深い森が広がっている。誰かが俺をここに連れてきたわけでもなさそうだ。完全に一人だ。手がかりを探して歩き始めるが、森の中は不気味なほど静かだ。


「まずは村か街を見つけないとな……」


歩き始めてしばらくすると、耳に微かな物音が聞こえてきた。何かがこちらに近づいてくる。


「誰かいるのか?」


警戒しながら振り向いた瞬間、茂みの奥から飛び出してきたのは巨大な狼のような魔物だった。赤い目をギラギラと光らせ、鋭い牙をむき出しにしてこちらに飛びかかってくる。


「やばいっ!」


咄嗟に剣を構え、狼の攻撃をかわす。しかし、その速さに一瞬気圧される。だが、体は自然と動き、剣を振り下ろす。鋭い斬撃が一閃し、狼の魔物は瞬く間に倒れ込んだ。


「……嘘だろ。あれ、俺がやったのか?」


自分の腕を見つめながら、狼の魔物を一撃で倒したことに驚愕する。もしかして、この体にはとんでもない力が備わっているのか?この異世界の法則がよくわからないが、とにかく俺は普通の人間とは違う存在になっているらしい。


「これは……俺、強いんじゃないか?」


そう思った瞬間、急にこの状況が少し面白くなってきた。異世界転生で、俺TUEEEE状態――まさか本当にこんな展開になるとは。


「ま、とりあえず村か街を探すか」


再び歩き始めると、今度は人の声が聞こえてきた。助けを求めるような叫び声だ。


「助けて!誰か、誰か助けてください!」


急いで声のする方向に向かうと、二人の女性が魔物に襲われているのが見えた。一人は金髪の華奢な少女で、もう一人は少し大人びた銀髪の女性。二人とも軽装で、冒険者のようだが、どう見ても戦闘には不慣れなようだ。


「大丈夫か!?」


俺はすぐさま駆け寄り、剣を構える。魔物は巨大な蜘蛛のような形をしており、無数の足で二人を囲み込んでいる。しかし、俺の体はまたしても自然と動き、蜘蛛の魔物を次々に斬り倒していった。


「す、すごい……」


金髪の少女が驚いたように俺を見つめる。銀髪の女性も安堵の表情を浮かべている。


「ありがとう、助かったわ」


二人が駆け寄ってきて、感謝の言葉を口にする。俺は少し照れながらも、彼女たちに笑顔を返した。


「大丈夫か?怪我はないか?」


「はい、助かりました。本当にありがとうございます!」


金髪の少女がぺこりと頭を下げる。彼女の澄んだ青い瞳が俺に向けられ、その可愛らしさに一瞬戸惑う。彼女は明らかに若く、無邪気な表情が印象的だ。一方で、銀髪の女性は冷静さを取り戻しつつも、まだ少し動揺しているようだった。


「貴方は冒険者なの?」


「まあ、そんなところだ」


自分が冒険者であるかどうかなんて、実際よくわからない。転生してからこの世界のことを何一つ理解していないのだから。しかし、今のところこの体が圧倒的に強いことだけはわかる。


「俺はハルトだ。とりあえずこの辺りは危ないから、どこか安全な場所に移動しよう」


「ハルトさん……私はエリナです。この子はミリア。私たちは近くの村から来た冒険者です」


エリナと名乗った銀髪の女性はしっかりとした口調で説明してくれる。ミリアと呼ばれた金髪の少女は、まだ少し怯えた様子だが、俺に対して感謝の気持ちを隠せない様子だ。


「よし、エリナ、ミリア。とにかく今は安全な場所を探そう。村に戻るか?」


「ええ、そうしましょう。でも……本当に助かりました。貴方がいなければ、私たちはどうなっていたか……」


「気にするな。俺ができることをしただけだ」


俺は軽く肩をすくめ、彼女たちを先導する。こうして、俺の異世界での冒険者生活が幕を開けた。自分の力がどれほどのものか、まだ完全には理解していないが、一つだけはっきりしている。


――この世界では、俺は確実に強い。


そして、これからどんな冒険が待っているのか、俺自身も楽しみになってきた。

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