えぴそーど10

翌朝、花姫が目を覚ますと隣にいたはずの昭光様は既にいなかった。

昨晩の事は夢だったのだろうか…。

そんな発想が花姫の頭の中で一瞬だけ巡ったが、花姫の隣の妙な空間に昭光様の温もりと言う名の気配がまだあった。


(…、昨晩私は昭光様と…っ!)


焦った花姫は布団の中の自身の身体を確認した。

寝衣は着ているか、下着は夜用意されていなかったので身に着けていないが…。


(これでは、やってしまったのか、出来ていないのか分からないじゃないのよっ)


どちらにせよ、昨夜のことを緊張のあまり、少ししか覚えていない花姫は困惑していた。

出来た記憶はないし、その感覚もないけど、出会ってから数日としない男の人と肌を見せ合うなど、そんなことが本当に起こっていたとしたら、その相手である昭光様にどんな顔で朝の挨拶をすれば良いのか…。

『どうしましょう、どうしましょう…』と頭を抱えたまま布団の中をぐるぐると動き回っていると、襖の開く音がした。


「お花。」


(…、昭光様っ)


なぜだか更に焦った花姫は自分がいないふりをすることにした。

昭光様が折角、自らの足で起こしに来てくださったと言うのに何とも無礼な…。

しかし、いないふりをする他ないのである。

もしも仮に、昨夜肌を見せたとしたら恥ずかしくて顔を合わせることが出来ない。

そうでなくても、昨夜出来ていなかったとしたら、それこそ申し訳なくて顔を合わせることが出来ない。


「お花?」


昭光様は、花姫がそこにいることはとっくに知っていた。

それもそのはずで、目を覚ました花姫が唐突に顔を真っ赤にし、布団の中に入って暴れだしたのを見ていたのだから。

花姫は襖と開く音と勘違いした音は、昭光が歩き出す音である。


(なるほど、いないふりをしているのかな?可愛いではないか。)


状況を理解した昭光様は静かに花姫の傍へ行き、布団を優しく人差し指でつんつんしてみた。


(びくんっ)


布団は明らかに動いていた。

突く度にビクビク動く。

それでも尚、花姫はいないふりを続けている。


「全く、君は子供じゃないんだから…。お花、おはよう。」


昭光様はそう言うと、花姫のくるまっている布団を無理矢理剥がした。

剥がすとそこには、昭光様が布団をはがしたことを申し訳なくなる位顔を赤くしている花姫がいた。

その弱弱しい視線と言い、小柄な身体と言い、少し怯えた態度と言い、それは昭光様の恋心をくすぐるものであった(そのついでに性欲をもくすぐっている)。

花姫は、布団を剝ぎ取られたままの体勢で、小さな声で『おはようございます…』と申し訳なさそうに言った。

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陰キャ女子の勝ち組平安ラブストーリー計画 玉井冨治 @mo-rusu

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