えぴそーど8
感動の余り涙を見せてしまった私に、その場にいた昭光様と侍女は温かいお言葉をかけてくれた。
私がこれ以上不安な気持ちにならないように、食事の時間に涙を流さないように、昭光様は一度食事を中断し、少しの間抱きしめて下さった。
食事を終えると、少し胃を休め、風呂に入ることになった。
「昭光様、花姫様。お湯の準備が出来ましたゆえ…」
「お花。君から入ってしまえ。」
「…はい。」
…?
ん?
あ、やばい。
そうだ。
忘れていた。
今日はつまり『初夜』ではないのか?
所謂『初夜』ではないのか?
そうだよね。
だって、昭光様と私・花姫が結婚し、この海崎の邸宅に着いたのが今日の夕方。
だから全ての準備が完璧になった環境での就寝は今夜が初めて。
昨日までの旅の途中で寄った宿では、私と昭光様は同じ布団はおろか、同じ部屋で寝ることはなかった。
しかし、邸宅についてしまって、邸宅の同じお風呂を使って体を洗い(別々の時にだが)、邸宅の同じ部屋で寝るのだろうか…?
「花姫様、湯の準備は出来ています。姫様のお着替えなども準備されております。」
侍女に催促されている。
これは行くしかない。
ああ、どうしよう。
まだ、同じ部屋で寝るのかも分かっていないと言うのに。
「はい…」
「お花、湯から上がったら私の部屋へ来てくれ。お菊さんが布団を用意しているから、そこで私を待っていてくれ。」
「…はい」
これは、まさしく『初夜』のお誘い…。
父ちゃん、母ちゃん、あなたの娘は今日、大人になるらしいです。
って、もう父ちゃんも母ちゃんもいないようなものなのだけれど。
「あ…、お、お、お、お菊さんー!」
風呂へ入るのはとても大変だった。
そういえば私は着物の着方も、着物の脱ぎ方も知らない。
帯の外し方も知らない。
つまり、1人ではお着物の着脱衣が出来ない。
失念であった。
結局風呂に入るのも、出た後でさえ侍女のお菊さんの手を借りることとなった。
「本当に…、申し訳ありません。何も出来なくて。」
「花姫様、良いのですよ。分からないことがあれば、これから覚えて行けば良いのです。今夜はとても美しゅうございますよ。では、布団も用意できたことです。この菊、本日はお暇させて頂きますね。」
夕食の時からずっと、お菊さんには迷惑をかけてばかりいた。
だからここでお菊さんを頼って、泣き言をいうようなことをすればきっと私は、来世では地獄を見ることになるだろう。
『人に迷惑をかけるような人生は宜しくない』
私は、部屋を去って行くお菊の後ろ姿に縋りたい気持ちを抑え、その場に足をへばりつかせるように、踏ん張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます