第6話

今は平安。


「あ、それは流石に知っているか…」

「え、平安なのですか。」

「その辺からの説明もなのだな。」


今は平安で、君の、花姫の故郷は和の国の北に位置する興の国。

花姫は君の名前。

君は、耳島の花姫。

もう直ぐで着くであろう我が国、私、海崎の昭光の故郷は興の国から更に北に位置する蒼の国。

君は興の国の領主である耳島の娘、つまり姫だ。

私は蒼の国の領主、海崎の現当主、つまり王なんだ。

そして、古来我が蒼の国と興の国は親交が深くて、我が弟君を興の国へ送る準備として君を我が姫にとなった。

3日前はその君をお迎えに上がったというわけだ。


「…と言うことは、私は昭光様のお嫁さんになると言うことでしょうか。」

「そういうことだ。」

「これでやっと分かりました。今は平安時代で、私は北のどこかの国のお嬢様で、昭光様はそのまたどこかの国の若王様で、私と昭光様はこの度結婚すると言うことですね。」

「うむ。」


ほぇー。

結婚。

結婚ですか。

結婚…。


「若様ー。もう着きますゆえ、準備を。」

「分かった。降りる準備をしておく。」



海崎邸はその名の通り海の見える高台にあった。

何て綺麗な海。

そして邸宅もとても綺麗に整えられていて非の打ち所がない。

今までに味わったことのないような、神聖さをここには感じる。


「お花。」

「はっ、昭光様。」


どのくらい、邸宅に見とれていたのか分からない。

ただ、時を忘れて見とれてしまっていたので、邸宅に着いたのに玄関先でその場を動こうと出来なかった。


「ごめんなさい。とても綺麗でしたので。」

「綺麗だった?」

「ええ、私はこんなにも綺麗な邸宅を見たことがありません。…本当に、私はこの素敵な邸宅に住まわせてもらえるのでしょうか?」

「ああ、この邸宅はとても綺麗だ。だが、君の今後の住処になるのだからそんなに驚いてはいけないよ。さぁ、中に行こうか。荷物もまだ置いていないだろう。」

「…はい」


恥ずかしい。

実に羞恥的である。

そうだ。

ずっとこの邸宅で生活している昭光様からすれば、この光景は当たり前なのだ。

だから、私のように「ずっとこの邸宅を眺めていたい」などとは思わないのである。

しかし、私のこのお恥ずかしい気持ちを汲み取り、私が恰も貧乏人か、それとも家無き者のような反応をしたことも、周囲に変に思われないように、直ぐに話題を逸らしてくれた。

昭光様は実に完璧なお方だ。

昭光様本人に、私が変な女だと思われていなければ良いが…。

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