第3話

夢を見た。

昔の人の夢だ。

私は寒い地域の国のお姫様で、とても高価なお着物を着ていた。

そのお姫様はお茶目で、お転婆で、私とはとても違う性格をしていた。

夢を見ながら思った。

私もこんなに強い意志の女の子だったなら、忌み嫌われることもなかったのかなと。

そして、例え誰かに傷付けられるようなことがあったとしても面と向かって抵抗をするのかなと。


現実は残酷だ。

夢は夢だ。

ただの私の想像の世界。

だから今日もまた、下らない1日が始まる。

こんな人生なら、早く終わらせてしまおうかとも思ってしまう。


「詩那里。起きたのか。」

「はい、おじさん。行ってきます。」

「ああ。行ってらっしゃい。お弁当、今日は忘れないようにね。」


おじさんと2人暮らし。

両親は事故で死んで兄弟は元々いない。

たった一人になった5歳の私を拾ってくれたのは父の兄であるおじさん。

私を父に代わって大事に育ててくれたおじさんだけど、私が学校で友達がいないことはおろか、虐められていてずっと孤立していることなど言えない。

誰にも相談できない。

おじさんに相談したらきっと、彼はとても悲しむからおじさんには絶対に相談できない。

学校の先生は頼りにならない。

以前一度だけ相談したけど、虐めの存在に気付けないような鈍感な大人である。

結局何の解決にもならなかった。


『行ってきます。』とおじさんに言ったけど、もう学校になど行きたくない。

まだ入学したばかりだけど、既に孤立してしまっている。

高校からは上手くやろうと思っていたけど、結局どこへ行っても同じようにな人間が沢山いる。

だからもう、学校へは行かない。

今日はどこへ行こうかな。

海とかに行っちゃおうかな。

遊園地も捨てがたい。

映画でもカラオケでも良い。


「あれ、花谷じゃね?」


学校とは反対側に進んでいっていたはずなのに、なぜだか知っている嫌な声が聴こえてきた。

聴こえていないフリをする。

俯いて知らない人のフリをする。

意味がなかった。

通り過ぎようとしたら、腕を思いっきり引っ張られた。


「花谷。流石に無理あるでしょう。」

「もう、私に構わないで。関わらないで。絡まないで。」

「…」


私の暗い死んだような眼を見たからか、『悪人』は去って行った。

どんなに汚い心を持っている人だって、一定の学力のある人間だ。

結局は本当に悪いことなんてできっこないのである。

大人の顔色を窺って生きてきたような、優等生であることには変わりない。

だからいくら高校デビューでイキっていたとしても、所詮は良い子ちゃんでなくてはならない。

私から、大人たちにチクられるのは御免と言うわけだ。

だとしても、学校へ行ったとして私への全員無視は終わらないだろう。

それならば辛いことには変わりない。

自分の存在を否定されるようなところに用などない。

だから私はこれから、自由を探しに行こうと思う。


とぼとぼと街を歩いていると、大きな橋に差し掛かった。

もうここまで来てしまったのか。

埼玉と東京を隔てる大きな川にかかる橋。

橋の真ん中で立ち止まったことなど一度もない。

行き場もなく暇なのだから、真ん中で立ち止まってみようかな。


「真ん中って、こんな感じなんだな。川は良いなぁ。」


少し、もう少しだけで良いからこの大きな川を感じたくてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、乗り出してみた。


「お嬢ちゃん!」


後ろから突然聴こえてきた声に驚いて、身体が前に転んでしまった。

橋の柵を掴もうと慌てて、手を伸ばしたがもう遅かった。

下を見ると川はぐんぐんと近付いていき、逆に上を見ると橋はどんどん遠ざかっていく。


(ああ、これはもう、死ぬんだな。まぁ、良い機会だったのかも…)

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