第31話 彼女の最期 ※ヴァネッサ視点

 目を覚ますと、私は冷たい部屋にいた。頭が痛い。ここはどこ。周りを見渡せば、むき出しの岩壁に囲まれた薄暗い部屋だった。まるで牢屋のようだ。


 私は粗末なベッドから立ち上がり、扉を開けようとした。びくともしない。これは間違いなく、閉じ込められている。


「なんなのよ、これ」


 イライラしたが、しばらくして落ち着いた。きっと、アルフレッド様が助けに来てくれるはず。私はそれを信じて、ただ待つことにした。


 私は幸運だから、最終的には助かるはず。そう思っていた。




「きゃっ!?」


 不意に扉が開く音がした。私は慌てて部屋の隅に移動して、警戒しながらその方向を見つめる。


「目を覚ましたか」


 鎧を着た男が、私を見下ろしながら言った。腰には剣が下げられている。逃げ出すには、彼を突破するしかなさそうだ。無理はしない。


「あなたは、誰? ここはどこなの?」


 私は静かに問いかけた。けれども、男は答えようとしない。代わりに、私に質問を投げかけてくる。


「お前は、自分のしたことを覚えているか?」

「はぁ? そんなこと、どうでもいいから。早く、アルフレッド様のところへ連れて行ってよ!」


 男は王国の兵士のようだ。なら、私の命令に従うべきよ。私は、アルフレッド様に愛されている。このことをアルフレッド様に伝えたら、彼が怒って兵士は大変なことになるはずだ。


 だが、男は一向に動こうとしない。続けて言った。


「質問に答えようとしないとは、面倒だな。うーん。そうだな」

「何をブツブツ言ってるの? 早くここから、出しなさいよ!」

「情報は期待しないと言っていたし、処刑も決まっているんだ。なら、さっさと始めてしまおうか」

「何を言って……? な、なに?」


 混乱する私の前で、さらに兵士たちが部屋へと入ってくる。


「ちょ、ちょっと! いやっ! ンッ――」


 彼らは容赦なく私を拘束し、薄暗い廊下へ引きずり出されれる。口には布を詰められ、声を上げることもできない。


 なんなの、この扱い! 私は、これから貴族の養子に迎えてもらって貴族の立場を得て、アルフレッド様の婚約相手になり、王妃になるような女なのに。


「んっ――! んんっ!」


 連れて行かれた先は、鳥肌が立つほど血なまぐさい部屋だった。


「まだ若いのに、可愛そうだ」

「でも仕方ないだろ。公爵家の令嬢に危害を加えたそうだから」

「さっさと終わらせて忘れようぜ」

「そうだな」


 兵士たちのぞんざいな会話が聞こえる。


 私は鉄の箱に押し込められ、身動きが取れなくなった。蓋が閉じられる音がして、暗闇に包まれる。その瞬間、体中に熱さと激痛が走った。そのせいで集中することが出来ず、魔法も発動することが出来ない。


「っ! ンンッ――!」


 まさか、本当にこんなところであっさりと死んでしまうの? そんなの絶対に嫌。誰か助けて。アルフレッド様!


 心の中で、アルフレッド様の名を呼ぶ。どうか助けに来てと、私はただひたすらに祈った。だけど、誰も助けには来てくれなかった。




 こうして、平民の女ヴァネッサは、公爵令嬢への危害を理由に人知れず処刑されるのだった。


 自分は幸運で、アルフレッド王子に愛されていると信じていた。だからこそ、取り返しのつかない過ちをしてしまった。


 自分の命を引き換えにするなんて、そんな大きな代償になるとは予想していなかった。

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