第30話 公正な処罰を ※エドガー王子視点

「失礼します」


 俺は、今回のために用意した資料を手に持って国王の執務室に入室した。


「どうした、エドガー?」


 いつもの威厳ある声で、父上が問いかけてくる。そんな父上の目をまっすぐ見て、俺は口を開いた。


「兄上のことについて、報告しに来ました」


 これまで集めた、アルフレッド王子の行動記録をまとめて資料にした。何度も確認して、これなら問題ないだろうと踏んだ上で、国王に会いに来た。


「アルフレッドが、また何かしでかしたのか?」


 兄の名を口にしながら、父上は少しだけ嫌そうな顔をする。やっぱり、これまでのことを把握していながら、見逃してきたのだろう。だが、今回の兄の行いは見逃せない。そのために、これまで兄の行動を監視し続けてきたのだ。


「はい。詳しい内容について、こちらに記載しています」


 差し出した資料を、父上は手に取る。


「資料なんか用意して、大げさだな。……それだけ、とんでもないことをしでかしたということか?」


 資料に目を通しながら、はぁ、とため息を漏らす父上。その表情は、徐々に険しさを増していく。


 俺は、学園の広場で起きた事件の詳細について、最初から順番に説明していった。兄上がいかにエレノア嬢を陥れようとし、理不尽な行動をとったかを、客観的な事実として伝える。それを聞く父上の表情は、どんどん暗くなっていく。


「これだけではありません。今回の他にも、パーティー会場でエレノア嬢に恥をかかせて、イジメの冤罪をかけようとしたり、学園に干渉して成績を改ざんさせようとしたりしています」


 そのことも、資料にすべて記載している。父上は、俺が用意した資料に目を通しながら、何度も溜息をつく。


「それは聞いたことがあったが、ここまでか……」


 兄の行動の一部は把握していたようだが、ここまで酷いとは思っていなかったらしい。やはり、自分の息子に甘いな。だが、もう兄を甘やかすことは許されない。エレノア嬢に、とんでもない迷惑がかかっているのだから。


「わかった。アルフレッドには罰を与える。内容については、改めて考えよう。それまでは、外へ出ることを禁じる」

「はい。そのように手配します」


 ようやく、望む判断を父上から引き出すことができた。正直なところ、私は兄上のことを嫌いではない。だが、今回の件で兄はやりすぎた。だから、相応の厳しい罰を与えるべきだと考えている。ここで手を抜くつもりはない。


「その平民の女は、どうする?」

「彼女についても、こちらで処理します」

「わかった。じゃあ頼む」


 ヴァネッサを貴族の養子に迎え入れる準備を進めていたらしいけれど、まだ彼女の立場は平民だった。


 それなのに、公爵家の令嬢であるエレノア嬢を魔法で攻撃するなんて、許されざる行為だった。公爵家にも一報入れておく必要がある。おそらく、彼女への処罰は死刑が確定するだろう。


 一体、兄はどうして自分の愛する女性にそんなことをさせてしまったのか。俺には理解できない。まあ、彼らの事情がどうあれ、やってしまったことに対して罰を与えることに変わりはない。


「よく働いてくれた、エドガー。褒美に、なにか欲しいものはあるか? 希望を言ってみろ」

 そう言って、父上は私を褒めてくれる。だが、私は首を横に振った。

「……いえ、特にはありません」


 褒美を求めて動いたわけではない。兄がエレノア嬢に迷惑をかけるのが許せなかったから。納得がいかなかったから。自分が動かなければ、誰も動かないだろうと思ったからだ。


 自分が納得するために動いただけ。だから、褒美を受け取ろうなんて気持ちは一切なかった。


「遠慮せずに、希望を言え」


 それでも父上は、俺に褒美を取るよう勧めてくる。断り続けるのも失礼か。これはどうしようかと少し考えて、別の方法を提案する。


「……それなら、私ではなくエレノア嬢に。迷惑をかけた分と、今回の件で助けてくれた分の十分な褒美を与えてください」


 エレノア嬢には、本当に色々と迷惑をかけてしまった。婚約の破棄や、嫌がらせの数々など。それに対して、正式な謝罪と謝礼を贈るべきだと思う。


 もしかしたら、今回の件で王国に対して悪印象を与えてしまったかもしれない。いやきっと、印象が悪くなったのは確実。それだけ、王族の人間に迷惑をかけられたのだから当然だと思う。


 だから少しでも、王国に対する印象を良くするように頑張らないと。そのための褒美。


「ふむ。わかった、お前が望むのならそうしよう」

「ありがとうございます」


 俺の願いを聞き入れてくれた父上に、感謝の言葉を告げる。


 こうして、アルフレッド王子に関する報告は俺の望む結果となり、無事終了した。きっとこれで、エレノア嬢にも平和な日常が戻ってくるはずだ。


 それで十分だった。

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