第32話 予期せぬ提案

 国王陛下に呼び出されて、私はお城にやって来た。どうやら、アルフレッド王子とヴァネッサに嫌がらせされた件について話したいそうだ。


 もう既に、エドガー王子に事情はすべて話していたので、報告も届いているはず。私から直接聞くこともないはずだけど、陛下の指示に従い、陛下が待っているという部屋に入った。


「よく来てくれた、エレノア嬢」

「お目にかかれて光栄です、陛下」


 片足を後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げて挨拶を交わす。陛下の他に、何名か大人たちがいた。彼らは大臣かしら。


 椅子に向かい合って座り、会話がスタートする。エドガー様も一緒にいてくれたら心強いんだけど。そう思いながら、聞かれたことを答えていく。かなり緊張する。変なことを言わないように注意しないと。




 広場の件についての質疑応答も終わって、これで帰れると思っていたら、まだ質問が続いた。


「迷惑をかけた謝罪と、エドガーの働きを助けてくれたお礼を渡したい。何か希望があれば聞くが、どうだ?」

「えーっと」


 いきなりの問いかけに、私は答えを窮して考え込んでしまう。むしろ、私のほうがエドガー様に助けてもらったのに。そう言うと、陛下のご厚意を無駄にしてしまうかも。どう答えるべきかしら。


 金品の要求は、下品かしら。王家の宝物を欲しいとは言えないし、適切なものが思い浮かばなかった。あまり強欲なものは、アークライト家の品位を下げてしまうし。そもそも、お礼を渡されることなんて考えていなかったし、何をお願いするべきか。本当に難問だった。


 次の機会に、とは言えないわよね。この場でなにか答えないと。


 それなら、思いついたことを言ってしまいましょう。勢いに任せて、言ってみる。


「でしたら、アルフレッド王子の王位継承権を剥奪してほしいです」

「ふむ、なるほど」


 言ってから、ハッとした。これは、ダメだったかもしれない。王家の事情に口出しするなんて、不敬罪で罰せられる可能性だってある。


 けれども、彼のような人物が次期王なんて望んでない。アルフレッド王子が王国を上手く統治するヴィジョンが全く見えないから。これも、不敬かしら。


 顎に手を当て、しばらく考えていた陛下は、私の顔を見て言った。


「わかった、君の言う通りにしようか」

「ありがとうございます。出過ぎた真似をして、申し訳ありません」


 まさか、すぐに受け入れられるなんてと驚く。


「別にいいさ。実は、そのことについて以前から考えていた」


 そうだったのね。私のお願いが、陛下の背中を押す形になってしまったみたい。私のような小娘の戯言で。本当に、いいのかしら。


「それより、コチラからも一つお願いしたことがあるが、いいか?」

「もちろんです。なんでしょうか?」


 陛下からのお願いを拒否するなんてこと、出来ないわ。内容を聞いて、どうやって達成するべきか考えるのよ。


「改めて君に、エドガーと婚約してもらいたいと考えている」

「え? ……エドガー様と、私が、婚約?」


 なんて言われたのかを理解できなくて、変な感覚。こんやく、って婚約のこと? 私は、王族の一人であるアルフレッド王子から婚約を破棄されたのに。


「アルフレッドの継承権を剥奪し、エドガーを継承権第一位に繰り上げる。そこで、君にはエドガーの妻として、王妃として支えてもらいたい」

「そ、それは」


 そう言われて、イメージする。私がエドガー様の横に立つ姿を。とても明確に思い浮かんだ。でも、それは許されることなの?


「あれから、まだ婚約相手は決まっていないと聞いている。だが、既に相手が決まりそうであれば、遠慮なく拒否してくれて構わない。それとも、君がエドガーのことを嫌っているのであれば、別の――」

「い、いえ! エドガー様のこと、嫌っていません。むしろ、いつも助けてくれて、頼りがいがあって、す、好きなお方、です!」


 勝手に口が、そう言っていた。それを聞いて笑みを浮かべる陛下たち。顔が熱い。


「わかった。それなら、エドガーを頼む」

「えっと、はい。わかりました」


 こうして私は、エドガー様と婚約を結ぶことになった。まさか、こんなことになるなんて。

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