第26話 卑劣な罠

「あ、あの……」


 気弱そうな生徒から話しかけられた。彼女は、最近放課後の訓練に参加するようになった子だ。これから仲良くなっていこうとしている距離感の子。


 彼女は、友だちと一緒ではなく一人で私に声をかけてきた。私も、ちょうど一人でいたところだった。


 私に話しかけてきたということは、魔法のことで質問でもあるのかと思っていたら、違った。


「えっと、伝言を頼まれて、その……」

「伝言?」

「は、はい。エドガー様が話したいことがあるから、今すぐ広場に来てほしいと」


 エドガー様? どういうことだろう。いつも助けてくれる人。だけど、それ以外であまり関わりのない人。関わりたいと思っているけれど、相手は王族だから気安くは会えない。


 わざわざ生徒を介して呼び出すなんて、彼らしくない。そう思ったとき、目の前のこの顔面が蒼白なのに気付いた。


 エドガー様から伝言を頼まれた緊張感かと思ったが、違う。何かに怯えている?


「どうしたの?」


 聞いてみるが。


「いいえ、何でも……ない、です」


 答えてはくれない。どうして彼女は怯えているのか。何を怖がっているのか。何かある。エドガー様が怯えられるような何かをしているとは思えない。そもそも、用事があれば本人が直接会いに来ると思う。


 つまり、呼び出したのがエドガー様じゃない。狙いは何でしょう? 考えた時に、アルフレッド王子とヴァネッサ2人の顔が思い浮かんだ。


 またあの2人の仕業なのかしら。いい加減にしてほしいわね。


「もしかして、脅されているの?」


 声を小さくして、周囲には聞こえないように。目の前の子にだけは聞こえるような音量で聞く。


「……」


 彼女は答えない。ただ、小さくコクリと頷くだけ。やっぱり、なにかされている。


 こんな事までするなんて。許せないわ。もしかしたら、今も監視されているとか。周囲の気配を探るが、わからない。見られていると思って行動したほうが良さそう。


「うん」


 これを無視すると、伝えに来てくれた彼女が危ない目にあうかもしれない。見捨てられない。そう思って、呼び出しを受けることにした。


「わかった。ちょっと、行ってくるわね」

「あっ」


 伝えに来てくれた彼女が、小さく声を漏らす。


「大丈夫。あなたは、巻き込まれただけ。気負う必要はないから」


 そして、私は広場に早足で向かった。




 広場に到着したが、そこには誰も居なかった。ぐるりと周囲を見ると、なにか変な違和感。その時、背後から魔法が飛んできた。反射的に防御魔法を展開する。背中に小さな衝撃があった。


「チッ! 防がないでよ」


 不機嫌な声の主は、ヴァネッサだった。彼女の本気の魔法を不意打ちで撃たれた。授業の時よりも、込められた魔力が鋭い。当たれば大怪我は間違いないほどの威力が込められていた。それを不意打ちで。防御するのは簡単だけど、とても不快だった。こんな姑息な真似をするなんて許せない。

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