第27話 怒りと冷静の間で
「どういうつもり?」
「エドガー王子の呼び出しにウキウキして来ちゃったの? ハハッ、愚かね」
私の問いかけには何も答えず、ヴァネッサは勝手な憶測をペラペラと話していた。冷笑を浮かべ、敵意に満ちた目で私を睨みつけてくる。
その間も、彼女は魔力を集中させ、攻撃態勢を整えているのが分かる。だが、腕を磨かないせいか、前の授業の時よりも衰えているわね。感情に任せた攻撃では精度も落ちる。そんな攻撃魔法では、私は倒せないわ。
「なんの警戒もせずに、一人で来たことを後悔しなさいっ!」
問答無用で放たれる魔法。こんな場所で、本気でやるつもりなの? 避けることも可能だけど、私は防御魔法で受け止める。学園の設備が壊れても、お構いなしという彼女。どうなろうが関係ないつもりかしら。
本当に、彼女がどういうつもりなのか理解できない。
「受け続けるだけ? 反撃する余裕もないの? やっぱり、試験の結果は嘘だったのね!」
ヴァネッサは防御魔法で受け続ける私を嘲笑い、挑発を続ける。彼女の魔力が底をつくまで無傷で受け止められる自信があるけど、いちいち鬱陶しい。
反撃したら倒せる。けれど、後でうるさそう。たぶん、これで反撃でもしたら私にイジメられたって言いふらすつもりなのよね。なんて幼稚な作戦。それとも、他に何か企みがあるといのう?
今回は、どうやって事態を収めるべきかしら。ここは広場だし、騒ぎを聞きつけて誰か来るのを待つのが無難かしら。
「結局、あなたは婚約破棄されて、公爵家の面目も丸つぶれよね。可哀想に」
「……」
ヴァネッサの挑発は続く。もちろん、私から手は出さないように我慢している。
「あなたの周りにいる友達って、みんなあなたの家柄に惹かれているだけじゃない? 本当はあなたのことなんて、誰も気にかけていないんでしょ。今も、いいように利用されてるだけよ」
「……はぁ」
頭にくる言葉を容赦なく浴びせかけてくるヴァネッサ。我慢、我慢。早く誰か来てくれないかしら。
「エドガー王子があなたに優しくしているのは、兄への対抗心からよ。あなたのことなんて、眼中にないわ。ただ都合が良かっただけ。世間の風評を気にして助けてくれたのを勘違いして。フフッ。笑ってしまうわ」
なんで、そこまで言われなくちゃならないの。もう、我慢するのも馬鹿らしいわ。お望み通り、反撃してやるわよ。
その一瞬、怒りが体を支配した。だけど、すぐに落ち着いた。感情をコントロールする。こんな相手にマジになって、それこそ馬鹿らしい。ヴァネッサに向けて飛ばした魔法を、当たる寸前で消した。ヴァネッサの防御魔法には届かない距離で。
けれども、彼女の展開していた防御魔法も霧散した。魔法が当たっていないのに。つまり、自ら魔法の効果を消した。
「きゃあ! ギャッッ!?」
「あ」
わざとらしく悲鳴を上げて倒れたヴァネッサだが、頭から地面に倒れた。ガンっと、ヤバそうな音を鳴らす。頭を打って鳴る音じゃないと思う。
イライラしていた気持ちが、一気に消えた。と言うか心配になった。当たりどころが悪くて死んだりしてないわよね? そこまで狙ってやったの? 体を張り過ぎじゃないかしら?
おそらく、私を挑発して魔法を撃たれるという演技をして、倒れるという展開まで考えていたんだと思う。でもまさか、地面に強く頭を打って気絶までするなんて考えていなかったと思う。
あまりにも自然な倒れ方だった。かなり痛そうだ。頭を打って、変な声も漏らしていた。もしかして、演技ではなく本当に足をすべらせたんじゃ?
「何をしている!」
倒れたヴァネッサの生存を確認しようとした時、アルフレッド王子が大声を上げながら来た。その後ろに、何人も生徒を引き連れて。彼らは、目撃者ということね。
「やはり、お前はイジメを行っていたんだな!」
いじめの現場を押さえたと、興奮して大声で喚くアルフレッド王子。そんなことより、ヴァネッサが目を覚まさない。本気で心配になった。
彼は、地面に倒れている彼女が気にならないのかしら。
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