第9話 師匠の教え
師匠と一緒に、屋敷から少し離れた大きな広場で魔法の訓練をしていた。
私の魔法の師匠は、とんでもない実力を持つ女傑だ。かなりの年上だと聞いているけれど、見た目は若々しい。私が出会った時から変わらない容姿。
身長は高く、スラリとした長い手足を持つ。体つきは引き締まっていて、無駄な贅肉がない。そんな見た目だから、やっぱり若く見える。
師匠に気に入られて、私は幼い頃から魔法の扱い方を習ってきた。
「ますます腕を上げたな、エレノア!」
師匠が放った炎の魔法が、私の防御魔法に当たり火の粉が広がって霧散する。炎の熱は残ったまま。全身に熱気を浴びて、ちょっと暑い。
「当たり前ですよ。師匠に教えてもらっているんですから!」
負けじと私も水の魔法を放つ。透明な水が、私の周りを旋回しながら集まって、巨大な水の塊となる。それが急速に回転しながら、鋭い水の矢となって師匠に向かっていく。
ひゅん、ひゅん、ひゅん、と。水の矢は音速を超えるスピードで突進した。空気が裂ける音が響き、地面が削られていく。
だが、師匠は動じない。両手を前に出し、強固な防御魔法を展開する。
魔力の壁が、師匠の前に現れた。私が放った水の矢は、その壁に激突する。大量の水しぶきが飛び散り、周囲に霧が立ち込めた。師匠の周りの地面が、水浸しになる。
だが、師匠はびくともしない。水の矢は、師匠の防御魔法を突き破ることができなかった。
「なかなかやるじゃないか。だが、まだまだ、だな」
師匠が手を振ると、霧が晴れ、水浸しになった地面が元通りになる。まるで、何事もなかったかのように。
「くっ……。師匠の防御魔法は、本当に強力ですね」
「当たり前だ。お前の魔法も、かなり鋭くなってきている。だからこそ、ちゃんと防げないとな。それじゃあ次は、こっちの番だ」
お互いに強力な魔法を撃ち合いながら、会話を続ける。
防御魔法もしっかり展開する。魔法がかすめていった地面には、大きなクレーターができていた。もし直撃したら、普通の人なら即死でしょう。鉄の鎧を着ていても、貫通して吹き飛ばされてしまうほどの大きな衝撃がある。
そんな強力な魔法を、私たちは平気で連発していた。一瞬でも気を抜いたら、大怪我になるから集中する。
「ところで、エレノア。最近、大変だったみたいだな」
「そうですね。アルフレッド王子との婚約が駄目になって、その後にも色々と面倒なことがありました」
師匠は、魔法を放ちながら私の話を聞いてくれる。私も防御魔法を展開しながら、話し続ける。
「そうなのか。貴族の生活がそんなに大変ならば、私と一緒に修行の旅にでも行こうじゃないか」
師匠のお誘いは、とても魅力的だった。世界各地の色々の場所に行き、魔法の腕を磨きたい。でも、それをするわけにはいかない。私はアークライト家の令嬢として、家のために貢献しないといけないから。
「でも、師匠。私はアークライト家の令嬢ですから」
「貴族の生活ってのは本当に、色々と縛られて自由がないし、大変だろうな」
「そうですね。でも、それが当たり前なので」
実は師匠も元貴族らしい。けれど、今では家名を捨てて自由に生きている。好きなように生きている。正直言って、羨ましい生き方だと思う。
婚約を破棄されて、イジメの冤罪まで背負わされて。そんなことされるのならば、私だって家名を捨てて、王国から出ていきたくなってしまう。
「だいぶ不満が溜まっているな、エレノア。全て吐き出すんだ。受け止めてやる」
「お願いします!」
私は普段抑えている魔法の強度を上げて、強力な魔法を連発した。
炎、水、風、土。様々な属性の魔法が、次々と師匠に向かっていく。
師匠はそれを全て受け止めてくれた。私の不満を、魔法という形で発散させてくれた。
「ふぅ……、すっきりした。ありがとうございます、師匠」
「ええい、やりすぎだ! ちょっと危なかったぞ」
注意されてしまった。でも、そう言いながら師匠は笑顔だった。
「だが、それだけ不満が溜まっていたということか。あまり我慢しすぎないように、適度に発散するように」
「はい、師匠」
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