第10話 実力隠しの理由
訓練の休憩中、私は気になっていたことを師匠に聞いてみた。
「師匠は、ヴァネッサという魔法使いの女性を知っていますか?」
「ヴァネッサ? うーん。聞いたことないな」
婚約破棄のキッカケとなった女性で、 アルフレッド王子が認める実力者らしい。私は、彼女について何も知らなかった。師匠も知らないとなると、王子はどこで彼女が実力者であることを知ったのだろうか。
相当な実力がなければ、王国の将来に明るい兆しをもたらしてくれる存在、なんて言えないと思うけれど。
「王子が認めた実力者? エレノアよりも実力が上、ということはありえないと思うがな」
「そうですか?」
「お前は、私が今までに出会ってきた魔法使いの中で一番の才能だった。それを幼い頃から真面目に磨いてきた。今では、お前を超える実力の魔法使いなんて、めったにいないぞ」
「そんなにですか?」
師匠はそう言って、私を高く評価してくれる。確かに、魔法学園では私の実力に匹敵するような魔法使いは居ないと思う。
私と同じように実力を隠している人がいたら、わからないけれど。
「わざわざ実力を隠すような子なんて、お前以外にいないさ」
「そうですか?」
「というか、実力を隠す必要なんて無いと思うが」
「でも、周りの人に迷惑になるんじゃないかと思って」
「お前は優しいから、気にし過ぎてしまうんだろうな。周りの奴らなんて、そこまで気にしなくていいさ」
「そういうものなのですか」
私の魔法の力は、魔法学園以外で磨いてきた実力だから。あまり目立ちたくなくて実力を隠していた。
それに、突出しすぎた力は学園の生徒達に迷惑になってしまいそうだから。授業の邪魔にならないよう周りの実力に合わせて、私は力を加減してきた。
生徒たちの多くは、まだ学園で学んでいる途中だから。上級貴族は、個別に教師を雇って、魔法について教えてもらったりしている子もいる。私もそう。
なので私は、彼らよりもはるかに先まで魔法に関する知識を学んでいた。
魔法学校の授業は復習がてら受けていたけれど、ほとんど意味がない。けれども、学園の卒業資格を手に入れるためにも授業を受けないといけない。
「でも、もう実力を隠すのは止めようと思います」
「お? そうか。なら、思い切りやってみるといい」
「はい、やってみます」
「……うん。やっぱり、やり過ぎないように、力加減には気を付けろよ。お前の全力は、本当に危ないからな」
「気を付けます。ありがとうございます、師匠」
師匠の言葉を胸に、私は自分の力に自信を持とうと思った。婚約破棄の件もあったので、これからは堂々と生きていこうと決意した。
ついでに、アルフレッド王子を後悔させるためにも。
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