第8話 歪んだ愛情 ※アルフレッド王子視点

 婚約を破棄することを受け入れてくれたエレノアは、手続きを進めてくれた。とてもありがたい。


「エレノア、手続きを進めてくれてありがとう。助かるよ」

「……当然のことですわ。お互いのためですもの」


 彼女の言葉は冷たかったが、俺のためにやってくれている。なら、俺も何か準備をしておこうと思った。


 手続きが整ったら、それを発表する必要があるだろう。そこなら俺も手伝えることがあるんじゃないか。どんな方法がいいか考えてみる。やっぱり、大々的に発表するのがいいと思うけど。


「そうだ。みんなが集まるパーティー会場で、婚約破棄を発表しよう。参加者が多く集まっていれば、それが一番インパクトがあるはず」


 とてもいい思いつきだった。大きな衝撃を与えて、知ってもらう。ただ、それだけじゃダメだ。俺の新しい婚約相手となるヴァネッサをどうするか、考えないと。


 平民出身の彼女が受け入れてもらうためには、やっぱり大きなインパクトが必要。当事者であるヴァネッサにも、一緒に考えてもらった。


「そうですね。それじゃあ、元婚約相手の方は悪者になってもらう、というのはどうでしょうか?」

「なるほど。それは、いい考えかもしれない」


 ヴァネッサの代わりに嫌われる存在になってもらう。ちょっとだけ申し訳ないとは思うけれど、彼女とは約束していた。俺やヴァネッサの評判を傷つけないようにする手伝いをしてくれると。その代わりに、王国から慰謝料を支払う、という約束を。


「実はイジメを受けていた、というのはどうだろう」

「いいと思います!」


 俺の提案をヴァネッサが絶賛してくれる。完全な嘘ではない。学園での彼女は浮いていて、馴染むまで時間がかかった、というのは本当だから。


 だから、イジメられているという情報を少しだけ誇張して、公開することにした。ヴァネッサのために。


 計画は順調だった。エレノアから、ようやく婚約破棄の準備がすべて整ったという報告があった。後は、それを公表するだけ。少し強引に、任せてもらえるように誘導した。後は、実行に移すだけ。


 成功するはずだった。まさか、弟のエドガーが邪魔してくるなんて! エレノアはいじめを否定してくるし、約束と違うじゃないか。


 俺の考えた計画は、台無しにされてしまった。


 せっかく頑張って計画したのに、失敗した。協力してくれると信じていたのに邪魔された。約束をやぶるような女だったなんて。これは、婚約を破棄して大正解。


 急に割り込んできた弟のエドガーに対しても、怒りが湧いていた。なんで急に割り込んできたのか。誰かに、いい格好を見せたいと思っていた、とか。


 とにかく、その2人のせいで計画は大失敗に終わってしまう。許せない。


「くそっ……。いつかエレノアたちには、俺の気持ちを踏みにじった代償を払ってもらう。必ず、だ」


 そう心に誓った。もう容赦はしない。

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