　俺も婚約相手のエレノアも、お互いに得意のない平凡な人物だった。そんな俺達は、このまま何事もなく生きていくんだと思っていた。平凡を良しとし、それでいいと自分に言い聞かせていた。

　そんな俺の考えを変えたのは、魔法学園のちょっとしたパーティーでの出会い。

　その日、パーティー会場の片隅で、俺はひとり退屈していた。エレノアは別の用事があるということで、横には居ない。そんな俺の周りには、誰もいない。こんな平凡な王子と仲良くしておこう、なんて考える者は居ないらしい。

　そんな中、ふと視線の先に、俺と同じようにぽつんと立っている女性を見つけた。

「君も、一人かい？」

　俺は気まぐれに、彼女に声を掛けた。彼女が振り向いた瞬間、俺は息を呑んだ。

「はい……？」

「っ！？」

　彼女の美しい顔立ちに、一瞬で心を奪われていた。

「き、君の名前は？」

「ヴァネッサです。貴方は、もしかして……」

「あぁ。アルフレッド、だ」

　その美しい女性は、俺のことを知ってくれていた。それが、とても嬉しかった。それから俺は、彼女と話をした。

　彼女が一人で居たのは、学園に友人が居ないから。貴族が多い中で、平民の彼女は浮いていた。どうして、彼女のような美しい女性を仲間はずれにしてしまうのだろうか。話を聞いて怒りが湧いてきた。

　学園のパーティーが終わった後も、ヴァネッサと頻繁に会うようになった。そこで彼女が不当な扱いを受けていることを知った。能力があるのに認めてもらえない。権力者が邪魔して、正しい評価を得られないという。それもすべて、彼女が平民だからという理由で。憤りを感じる。

　彼女の実力を、俺も見せてもらった。間違いなく優秀だった。

　平凡なエレノアでも平均的な評価を得ているのに、真の実力者であるヴァネッサは最低限の評価しかもらえていない。正しく評価してもらえていない。

「ヴァネッサ、俺は君の能力を評価するよ。周りが認めなくても、俺が認める」

　そう告げると、ヴァネッサは涙を浮かべて喜んでくれた。これほどまでに喜んでもらえるなんて、俺も嬉しかった。

　そう、これこそが俺の変わるきっかけだったんだ。ヴァネッサに出会って、初めて分かったことがある。俺は、平凡な人生なんて嫌だった。

　初めて、誰かを助けたいと素直に思えた。平凡な俺でも、王子として権力を使えば女性を一人ぐらい助けられる。そう思って行動に移した。

　ようやく、正当な評価を得られるようになったヴァネッサ。

「ありがとうございます、アルフレッド様っ！」

　ヴァネッサから、とても感謝された。好きな女性から感謝されるのは格別に気持ちよかった。彼女のおかげで、俺の人生は平凡じゃなくなった。

　俺を変えてくれた彼女と、これから先も一緒に居たい。そう感じたとき、俺は自覚した。本当は、エレノアを愛していなかったという事実を。彼女も、きっと俺のことなど愛していない。お互いに愛していない者同士が一緒になったって不幸になるだけだろう。

　だから俺は、思い切って行動する。ヴァネッサを助けたときのように、婚約相手のエレノアのことも助けたいと思った。そのためには、婚約を破棄する必要がある。

　このまま何も知らないまま結婚して、子どもを生んで、人生を送るなんて不幸だ。彼女も、平凡な人生からは脱却するべき。そう思って、エレノアを呼び出して本当の気持ちを打ち明けた。

「正直に言う。俺は、お前よりもヴァネッサという女性を愛している」

　俺のように君も、本気で愛せる相手を探して、自分を変えるキッカケを掴んでほしい。

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