不幸代行人

くらげれん

第1話

 僕の仕事は不幸の代行です。今日の仕事はボートから湖に落ちることです。依頼人は、ボートの上で彼女と話すネタが欲しいと言っていました。インパクトのあるいい感じの落ち方ができるように頑張ります。


 湖のボートの上。依頼人は彼女さんとお話をしている。

「…で大変だったんだ。」

「本当に大変そうですね。うふふ。」

 そろそろですね。行きます!

「うわぁぁっ…あぶぶ、はぁはぁ、ブクブクブク」

 いい感じです。

「わぁ、あの人、ボートから落ちたぞ!」

「まぁ、大丈夫でしょうか。ボートにお一人で上がれますでしょうか。」

「ゆっくり近づいてみよう。」

 依頼人がボートを寄せる。

「お兄さん、大丈夫ですか?」

「大バブブですっ。ブクブク」

「溺れそうじゃないかっ!手を伸ばして!」

 依頼人が不幸代行人を引き上げる。

「すみません、ありがとうございました。助けていただいて。それじゃあ僕は自分のボートに戻りますね。」

 依頼人の彼女が、

「また落ちないでくださいね。」

 といった。


 依頼人のデートが終わった。

「ありがとうございました。デートうまくいきました。助かりました。」

「いえ、仕事ですので。依頼料、しっかりいただきました。またのご利用、お待ちしております。」


 今日の依頼人はとても優しい方でした。

 僕に依頼してくれる方は、4パターンに分けられます。僕の不幸と自分の不幸を比較して、心を安定させる方。僕の不幸で幸せを作ろうとする方。僕と不幸を分けたい方。それから、その他の理由がある方。

 僕は4つ目に分類される方からの依頼はお断りしています。だってその方たちの依頼には、法律に引っかかったり他の誰かを不幸にしたりする内容が多いから。

 僕は誰かの幸せのために不幸代行するんです。時々、こう聞かれることがあります。

『自己犠牲ですか。それともヒーロー気取りですか。』

 僕はこう答えます。

「自己犠牲でもヒーロー気取りでもありません。僕はこの仕事に誇りを持っていますし、とても良い経験をさせていただいています。元々全ての事象に良いも悪いもないんです。それを幸せだと思うか、不幸だと思うかは人それぞれなんです。誰かが不幸だと思った事を、僕は幸せだと思えて、それが僕の仕事になっているんです。」

これを聞いて馬鹿だ、イカれてると言い放って去っていく人もいました。僕はたとえ馬鹿でも自分の心を信じます。


「明日は、どんな方がきてくれるでしょうか。」

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不幸代行人 くらげれん @ren-k

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