第7話

 翌朝、麗奈が目覚めるとTシャツ姿でタオルを使い濡れた髪を拭く丈二が部屋のテレビの前で固まっていた。

 何事かと思い重い体を起こし近付いてみる、髪型の崩れた状態で横からテレビ画面を覗き込んだ。


「どーしたの……?」


「おいこれ……」


 丈二が指したように麗奈はしっかりとテレビを見る、するとそこには彼の顔が映っていた。


「え、これお兄さん……⁈」


 慌てて画面を隅々まで見てから音声を聞く。

 どうやらこれはニュース番組のようだ、そして見出しにはなんと"少女誘拐事件"と書かれていた。


「誘拐⁈ 私自分から着いて行ってるのに!」


 インタビュー画面ではロックバーのマスターが出ており昨日の丈二の店での様子などを答えている。


『なんかソワソワしてて変だなとは思ったんですけど、まさかあのまま誘拐までするなんて……』


 完全に報道では丈二が無理やり麗奈を攫ったように伝えられており麗奈の目撃情報を求める声が。


『行方不明なのは渚 麗奈さん16歳、昨晩家を出たきり帰って来ないと母親から警察に連絡が。最後に目撃されたのは岬容疑者と車に乗り込む姿のため誘拐だと予想されます』


 そして麗奈の母親と紹介された人物が顔を出さずにメッセージを残した。


『最後に喧嘩しちゃって、謝りたいんです。どうか娘を返して下さい……!』


 その様子を見た丈二は罪悪感がピークに達してしまった。


「これ以上背負えねぇって……」


 革ジャンを羽織り部屋のキーを手に取りチェックアウトの支度を済ませる。


「え、どうするの……?」

 

「あぁっ、予想以上にヤバい事なった……」


 麗奈の問い掛けに答えられないほど焦る。

 そこで丈二はある事を思い出す、こうして罪を犯してしまった理由についてだ。


「あーでも母さんがっ、どうしよう……っ」


 このまま捕まってしまえば流石に母親に真相がバレてしまうだろう、そうすれば本当に自死を選んでしまうかも知れない。

 しかし既にこのようにテレビで報道されてしまっている、グループホームで見て知ってしまった可能性もある。


「クッソ……」


 スマホには職場や直樹からの着信が山ほどあった。

 何かしようとする度に罪悪感がどんどん増して行く。


「お兄さん、どうしたの……っ?」


 焦る姿があまりにも滑稽だったのか麗奈が不安そうな目で問い掛けて来る。

 当然だ、彼女は丈二を自由でカッコいいと思い着いて来たのだから。


「私、家には帰りたくないよ……? もうあんな縛られた生活には戻りたくないっ」


 そう言いながら丈二に縋るように懇願して来る。


「お願い助けて! ちょっとの間でも良いからお兄さんみたいに自由でいたいの!」


 その言葉を聞いた丈二は昨日逃げ出した時の自分と麗奈を重ねてしまう。

 丈二は縛られている事に気付きそれを指摘され全てが嫌になったから逃げ出した。

 麗奈も今の自分と同じなのかも知れない。


「俺が自由か……」


 独り言のようにそう呟いて麗奈の目を見る。

 それは丈二に救いを求めて潤んでいた。

 その瞳に見覚えがあった。


「どうなるか分からないぞ?」


「それでも良い、一瞬だけでも自由を知りたい」


 覚悟を決めたように言ってみせた麗奈に丈二は何か複雑な想いを抱いていた。


「よし、じゃあ行こう」


 そのまま二人は現実逃避の旅を続ける事を選んだ。

 しかし丈二の表情はまだ少し不穏であった。




 

 ボサボサだった髪の毛をしっかり乾かし整える。

 しっかり麗奈がカッコいいと思ってくれるようなビジュアルだと認識した上で丈二はチェックアウトに向かった。


「はい、確認しましたー」


 相変わらず気怠そうなスタッフにキーを渡して料金を支払う。

 そのまま退散しようとするが受付内にあるテレビに視線が向いてしまった。


「やべ……」


 そこには自分たちを報道するニュースが流れていた。

 気付かれる前に二人はそそくさとホテルから立ち去り車に乗り込んだ。

 慌てて発車したためぶつけそうになってしまったが何とか道路に出る事に成功する。


「うわ〜危なかったねぇ」


「心臓もたねぇ……」


 何とかホテルを脱出した二人はそのまま車を走らせるのだった。

 当てのない旅はまだまだ続く。






 つづく

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