第6話

 盗んだスポーツカーに乗りながら丈二と麗奈は行く当てを探していた。

 泊まれそうなホテルは満員でネットカフェなんかも未成年が止まるのは禁止されていた。


「どうする、休まらねーぞ……」


 段々とイライラが募ってくる丈二。

 しばらく安心して煙草も吸えていないためだろうか。


「煙草吸いてぇ」


 小さく呟くと麗奈が純粋な目で言ってきた。


「吸えば良いじゃん」


 しかし彼女は後ろめたい事情が分かっていない、これは他人の車なのだ。


「あのな、他人の車だぞ」


 すると麗奈は驚くように目を見開く。


「そーゆーの気にするの? それ以上の事もうやってるのに」


 確かに言う通りかも知れないがこれ以上罪悪感を味わいたくないのだ。


「ねぇ私見てみたい、運転しながら煙草持ってる手を窓から出すやつ!」


 しかし先ほどからずっと目をキラキラさせている麗奈。

 その瞳を見て丈二は思い出した、彼女は自分をカッコいいと思い着いてきたのだと。

 ここでその期待を裏切れば更なる罪悪感どころか警察に話されてしまうかも知れない。


「ったく、分かったよ……」


 まるで仕方がないと言うかのように丈二は煙草を咥え火を点けた。

 そしてひと吸いしながら窓を開け右腕をだらんと外に出してみせる。


「おぉそれそれ! 映画みたいでカッコいい!」


 やはり麗奈は大喜びだ。


「映画好きなのか?」


「うん、ってかサブカル系全般!」


「だからそんな恰好……」


 セーラー服にジージャンを羽織るという云ったて変な恰好には疑問を抱いていた。


「これはね、学校から帰ってそのまま親と喧嘩したから着替える暇なかったの」


「なるほどね」


 そんなやり取りをしながら車は走っていく。


「親と喧嘩したってどんな……」


 そこまで踏み込もうとしたタイミングで麗奈が何かを見つける。


「あ! ホテルだって!」


 人気のない裏通りにまるでアメリカのモーテルのようなホテルがあった。

 サブカル好きな麗奈は大喜び。


「モーテルみたい! ねぇ駐車場空いてるよ、ここなら泊まれるかも!」


 そう言って喜ぶ麗奈だが丈二は分かっていた。

 ここはどう見ても“ラブホテル”だ。


「ここって……」


 かなり不安になるが麗奈の期待を裏切れない。

 二人はここにチェックインする事にした。





 受付で丈二は少し緊張しながらチェックインをした。

 スタッフの視線は冷ややかだったが無言のままキーを渡してくれる。

 背後のテレビに目をやるとニュース番組が映っており丈二は不安になるがまだ自分の事は報道されていなかった。


「ふぅ、何とか入れたな」


「わ~でっかいベッドー!」


 一度緊張から解かれ溜息を吐く丈二といきなり大きなベッドにダイブする麗奈。

 靴を履いたまま布団や枕を抱きしめシーツの上を転がる麗奈に目をやると解放感からかスカートが捲れてしまいそうだった。


「っ……!」


 慌てて目を逸らすが麗奈は何も気付いていない。

 そこでようやく来てしまったのはどんな場所なのか実感できた。

 しかし流石にこれ以上罪を重ねる訳にはいかない。


「はしゃぎすぎだぞ、ベッドでは靴脱げ」


「はーい」


 布団に包まったまま麗奈は靴を脱ぎそこら辺に投げ捨てた。

 そしてもう一度思い切りベッドに飛び込み大の字で寝転がった。


「凄い楽しいの、何にも縛られずに自由を感じれる!」


 まるで独り言のように満足気に言う麗奈。

 しかし丈二は後ろめたさを感じていた。

 自分は母親に縛られ何の自由もない、ただ現実逃避をしているだけなのだ。

 麗奈はそれを自由だと勘違いしここまで来てしまった、本当にこれで良いのだろうか。


「なぁ……」


 その事について相談しようと口を開くが返事がない。

 彼女の方をよく見てみると既に寝息を立てていた。


「すぅ、すぅ……」


 大きなベッドを大の字で独占し布団も掛けずに眠る麗奈を見て丈二は彼女にもあるかも知れない事情について考えた。


「ふあぁ……」


 布団をはだけさせ無防備にもベッドで眠る麗奈を見つめる丈二も気が付くと眠くなり大きなあくびをしてしまった。

 流石に一日大変だったため疲れがドッと押し寄せて来たのだ。

 しかしベッドは一つ、このままでは麗奈と一緒に寝る事になってしまう。


「うぅん……」


 すると麗奈が布団を抱くように寝返りをしてベッドの左半分に一人分のスペースが開く。

 丈二も疲れが限界だったためそこで寝る事を考えてしまった。

 ここまで肝の据わった子なら別に隣で寝ても大丈夫だろうと謎の安心感が募り丈二はそっとベッドに近づく。

 すると麗奈の方から何やら啜り泣く声が聞こえた。


「うぅっ、ぐすっ……」


 なんと眠りながら大粒の涙を流していたのだ。

 そこで理解する、彼女は見栄を張り大人ぶってるだけの子供であるという事。

 少し表情が緩んだ丈二は麗奈に布団をしっかり掛けてやり部屋の隅にある椅子に腰掛け座ったまま眠ったのだった。






 つづく

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