第5話

 ロックバーの外に置かれた灰皿の前で丈二は座って煙草に火を点ける。

 隣では少女が立ったまま丈二を見つめていた。


「ねぇ、何で助けてくれたの?」


「だからナンパだって……」


「ウソ、それなら何で話しかけもしないわけ?」


 速攻でナンパ目的ではない事がバレてしまった。

 こうなってしまえばどう言い訳したものか、犯罪者であるとバレるのは避けたい。


「お兄さん犯罪者なんだ?」


「ごほっ、何で……っ⁈」


 一瞬で言い当てられてしまい衝撃を受ける。


「だって警察って言われた途端止めに来たし……」


「くぅっ……」


 これ以上反論できなかった。

 そのお陰で彼女の中で丈二は立派な犯罪者だ。


「ねぇ何やったの?」


 なぜか興味深々で聞いてくる彼女。


「何で嬉しそうなんだよ……」


「ロックな人好きなんだ! 何にも縛られないって感じで!」


 その言葉を聞いて丈二は直樹に言われた事を思い出してしまう。

 母親に縛られていると彼は言った、その通りだ。

 自分は彼女にとって好かれるような人物ではないと認識する。


「ねぇねぇ、教えて?」


 しかし興味関心を止められない彼女に丈二は正直に答えた。


「ダチと口喧嘩になったから、車盗んで逃げた……」


 正直に伝えてしまったがどうだろうか。

 彼女の反応を伺っている。


「えーすご! 超ロックじゃん!!」


 なんと好印象を与えてしまった。

 決して彼女が思うようなカッコいい人物ではないが憧れの眼差しを向けられるのは不愉快ではなかった。


「う~ん……」


 頭を掻きむしり丈二は考える。

 今はこの少女に合わせた方が警察を避けて逃げれるのではないか。

 しかしなかなか勇気が出ない、変にカッコつけても職場の上司のように嫌われるのがオチだろう。


「そんなカッコいいもんじゃねぇぞ? 第一印象だけでつまんない男さ」


 少しだけカッコつけが出てしまった。

 煙草の持ち方も無意識に少し変えてしまう。

 するとそれが好評だったようで。


「おぉその持ち方カッコいい! うん、お兄さんはつまらない人じゃないよ!」


 心から褒めてくれているように思える。

 それが少しだけ心地よかった、自然と小さく笑みがこぼれてしまう。


「そこでお願いがあるんだけど! 今逃げてるんでしょ? 私も連れてって!」


「はぁ? 何でそんな事⁈」


 流石に同行を望むのは想定外だ。

 それに丈二も勢いで逃げてしまったため何もプランなどない。


「私実は家出してるんだ、行く所なくて……お兄さんと一緒なら楽しめそう!」


 どうやら彼女も訳アリらしい。

 ここで断れば警察にチクられる可能性もある。


「許してくれなきゃ補導された時に警察に言うぞ」


 やはりそうだ、可愛い顔して脅してくる。

 ならば選択肢は一つだ。


「はぁぁ、分かった着いてこい」


「やった!」


 彼女の同行を了承するほか無かった。

 煙草の火を消したら立ち上がり車の方へ案内する。


「これが車」


「盗んだ車かぁ」


「おい、あんま言うな……」


 目を輝かせながら車体を見つめる彼女を他所に丈二は運転席に座った。


「早く乗れ、置いてくぞ」


 無意識にカッコつけるような態度を取ってしまい自分の変化に驚く。


「あぁ待って」


 彼女も慌てて助手席に座ってシートベルトを締めた。


「よーし、レッツゴー!!」


 エンジンを蒸かし二人を乗せたスポーツカーが発車される。


「そいえば名前は?」


「麗奈、渚 麗奈!」


 渚 麗奈(なぎされな)と名乗った少女は元気そうに丈二に向かってほほ笑んだ。


「ちなみにピチピチの現役JKだよっ!」


「マジかよ……」


 冷や汗を流す丈二と輝く笑顔を見せる麗奈。

 二人の現実逃避の旅が始まるのだった。





 一方で二人が先程まで訪れていたロックカフェ。

 マスターのスマホに一本の電話が届いた。


「もしもし、どうした直樹?」


『マスター、すみません遅くに』


「営業中だから問題ないよ」


 着信相手は直樹だった。

 少し疲れたような口調の彼をマスターは心配する


「てか大丈夫か、具合悪そうだけど」


『色々ありまして、ちょっと聞きたいんですけど』


 そして直樹は本題に入る。


『店に丈二来てません?』


「あぁ、さっきまでいたよ」


『え、マジですか?』


 意外にもあっさり望む答えが聞けたため直樹は目を見開く。


「車買ったとか言って喜んでたけど」


 すると直樹の強い溜息が電話越しから聞こえる。


『その車、俺のです』


「どういう事?」


『盗まれたんですよ!』


 そして直樹は現状とお願いを伝えた。


『今警察と話しててアイツが行きそうな場所探ってたんですよ、詳しい状況とか教えてくれません?』


「わ、分かった……」


 こうして直樹は警察と共に丈二の居場所を探るため情報を集めていくのだった。






 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る