第4話

 無我夢中でスポーツカーを走らせ直樹を振り切った後、一度冷静さを取り戻した丈二は事の重大さに気付いて悶絶した。

 このまま走らせるのも危険なのでたまたま見えてきたコンビニの駐車場に車を停める。

 扉から勢いよく飛び出しコンビニに設置された灰皿の横に座り煙草に火を点けた。


「すぅぅぅ……ごほぉっ!」


 とてつもないストレスに襲われたためいつもより深く煙を吸い込んだ結果咳き込んでしまった、満足に煙草も吸えないほどに弱ってしまっている自身の精神状態を悲観してしまう。

 すると丁度コンビニから出てきたガラの悪い男三人組が灰皿に近付き煙草に火を点ける。

 彼らに少し恐怖を覚えた丈二はそそくさとその場を離れ車に戻った、しかしまだ煙草は吸い足りなかった。


「っ……」


 それでも火は点けられない、何故ならこれは他人の車。

 直樹は煙草が嫌いなためそんな彼の所有物の中で喫煙する事は避けた。

 このストレスは罪悪感によるもののためこれ以上罪を重ねるわけにはいかなかった。

 仕方なく車を走らせこの時間もゆっくり煙草が吸える場所へ向かうのだった。





 やってきたのは夜間営業がメインのロックバー。

 丈二は直樹に勧めてもらったこのロックをテーマとした店に度々訪れていたのでマスターとも顔見知りだった。

 そのコンセプトの通り60~70年代のロックが流れる店内で煙草に火を点けるとマスターが話しかけて来た。


「今日は直樹は一緒じゃないんだ」


「そうっすね……」


 今まで一人でここへ訪れた事は殆どないため珍しがられてしまった。


「んじゃ何飲む?」


「飲めないんです、運転するんで……」


「お? 遂に車買ったの?」


「そ、そんな感じっす……」


 盗んだなんて言う訳にはいかない、ましてや共通の知り合いのものをだなんて。

 しかしマスターは興味深々で詰め寄って来る。


「ねぇ車見せてよ!」


「え、それは……」


 流石に見せるのはマズい、直樹の車をマスターは知っているため見られた瞬間に盗んだ事がバレてしまうだろう。


「何渋ってんだよ。あ、直樹のスポーツカーで目が肥えてると思ってんのか?」


 この場で話題にも出されてしまうほど印象深いものだという事。

 ならば尚更見せる訳にはいかなくなった。


「ぅ……」


 なかなか動き出さない丈二を疑問に思ったマスターが不思議そうに顔を覗き込んで来る。

 一筋の冷や汗が額から頬に伝った。

 そのタイミングで予想外の助け舟が丈二に訪れたのだ。


「お、いやっしゃいませ……ん?」


 突然入り口の扉が開いて新たな客がやって来たのだ、マスターはそっちの対応に回る。

 丈二は助かったと言わんばかりに溜息のように煙を吐いた。


「え、その恰好なに……?」


 すると来客の対応に向かったマスターの声が聞こえる、何事かと丈二はそちらに目を向けた。


「高校生なの? それともコスプレ? 身分証見せてもらっていいかな……?」


 マスターはセーラー服の上にジージャンを身に着けた何とも変な恰好の少女に手を焼いていた。

 この店は喫煙可能であり酒類も提供する深夜営業店である、未成年が入れない理由が嫌と言うほどあった。


「身分証っ、持ってないです……」


 少女は一瞬ポケットに手を突っ込むが出てきたのはゴールドのクレジットカードだけ。

 身分を提示できるものは何も無かった。


「年齢が分からないとちょっと入れられないかなぁ」


 服装が服装なのでマスターも入れてやる事が出来ない。

 しかし何故か少女は引き下がらなかった。


「えー良いじゃないですか! ほらこのクレカ、めっちゃいいやつ! 私お金持ちだから!」


 流石にマスターも呆れたのか脅すような手に出る。


「あのねぇ、こっちも営業してる身だからしっかりしなきゃいかんのよ。警察呼んで家に帰してもらう事なるけど?」


「え、警察は……っ! ウチには帰りたくない!」


 マスターはとうとう警察という言葉を出した。

 それには絶賛逃亡中の丈二も焦りを見せる。


「あの、マスター……!」


 気が付くと立ち上がりマスターに声を掛けていた。


「どうした、知り合い?」


「えっと、そーゆー訳じゃ……」


 必死に頭を回転させてこの場を切り抜ける方法を考える。

 その結果導き出した答えとは。


「その子、俺が連れて帰るよ……」


 なんとお持ち帰り宣言だった。

 マスターも少女も目を丸くしてしばらく黙ってしまった。

 そしてとうとう口を開く。


「JKをナンパかお前⁈ なら外いきなー、ウチはそういった事に加担したくは無いんでね」


 未成年をナンパするなら外でやれと言われ店を二人で追い出された。

 お席料だけ支払い丈二は見知らぬ少女と店の外へ出たのだった。






 つづく

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