第24話


 「あぁ、この娘なぁ。

  俺も思った。美人さんだよな。」

 

 じゃ、ねぇよっ!

 これ、なんで、女なんだよ!

 

 ファン投票2位、女性ファン向けBLキャラだぞ?

 どうして女体になってんだよ!

 

 うわ、なんだこれ。

 想像を絶した。

 

 いままで、全員原作通りに出てきたから、

 てっきり日吉綸太郎もそうだと、

 微塵も疑わなかったのに、どうして。

 

 ……。

 まずい、な。

 

 日吉綸太郎と同じように、

 復讐のための親殺しを内に秘めているなら、

 閏房に潜れる女性のほうが、チャンスはずっと多い。

 諦めさせることはできないかもしれない。

 そうなったら、敵方だ。

 

 ……最も、月宮雫にとっては、

 そっちのほうが攻略しやすいだけかもしれないが。

 

 いや。

 いったん、おいといて。

 

 「児童養護施設としては、

  他のところと比べて、待遇はどうなんですか?」

 

 「まぁ、施設としては、悪くはないんだろうな。

  外枠しか分からないが、一通りのものは備えているし、

  員外の職員定数もちゃんと満たしてる。」

 

 やっぱり。

 

 もし、この養護施設を壊すなりなんなりした時、

 この子たちは、ほかの施設に移されるだけだろう。

 どこの施設も定員近くまで満たしていたりすれば、

 待遇が悪くなってしまうだけ。

 

 養護施設は、実験素材を提供する側。

 素材を求める側を絶たなければ、

 同じことを繰り返すだけに過ぎない。

 

 そもそも、ピンポイントで、

 この娘だけを拾い上げる方法なんて

 

 「あっ!」

 

 「!

  な、なんだよお前っ!

  驚かすんじゃねぇよっ。ったく。」

 

 その手は、あるのか。

 まさか、王道が一番てっとりばやいとはな。

  

 「で?」

 

 え?

 

 「ここまでしてんだ。

  お前さん、なんのためにこれを調べたか、

  教えてくれてもバチはあたんねぇだろ。」

 

 あぁ。

 すっかり忘れてた。

 

 ……

 でも、

 これ、どう言ったもんだろうな……。

 

 それこそ

 

 「そちらと同じですが、

  どうして知っているかは、

  聞かないで頂けますか。」

 

 「おま。」

 

 「それでよろしければ、お話はしますが。」

 

 「……

  お前、顔、そんなんだったら、

  愛嬌くらいねぇと、どっかで殺されるぞ。」

 

 あぁ。

 そうだよなぁ。マジで整形手術したい。

 

 「……わかった。

  それでいい。さっさと吐け。」

 

 立派な尋問じゃん。

 

 「では。

  東京JL病院をご存じですか?」

 

 「……っ。」

 

 出石御影の不審者然とした睨み顔が、一瞬、驚きに満ちた。

 知ってるってことじゃん。


 「表向きは、

  労働者のための病院として長い歴史を持つ名門病院ですが、

  もともとは、旧軍の研究病棟です。」

 

 あえて、調べればだれでもわかること本編中のセリフを言ってみる。

 それですら。

 

 「……お前が、

  なぜ、それを、知っている。」

 

 あぁ。

 出石御影も、裏向きがありそうだな。


 「さきほど、

  『それでいい』とおっしゃいましたよね?」

 

 「……。」

 

 「おそらくは、のひとつかと思います。

  それも問題ですが、より深刻なのは


 

  「『』研究。」


 

 え。

 あの、河野時之助さん?

 

 「……ったく。

  そういうことかよ。」

 

 「……ええ。」

 

 よくわからないけど、頷いておこう。

 たぶん、原作の設定集に絡んでるアレだろうから。

 

 「……

  旧軍の亡霊、か。

  こんな連中に晴海の研究が知れたら大事だな。」

 

 それこそが原作世界なんだよなぁ……。

 <覚醒者>を人為的に作ろうとしてたわけだからな。

 〇軍真っ青の無意味な虐待と精神破壊を通じて。

 さすが人倫皆無の鬱ゲー世界。


 「……。

  で、お前は、

  この養護施設の全員を助けたいとでも言うのか?」

 

 人道主義者ならそうあるべきとは思うが。

 

 「それが理想形でしょうが、

  さしあたっては、女の娘を一人、保護したいところです。」

 

 ほんとはオトコの子だったんだけど。


 「なぜ、この娘なんだ?

  確かに一番顔が

 

 「その前に。

  都議会議員、甲斐田良英氏をご存じですか?」

 

 「……

  どうして、お前が、

  その名を。」

 

 あぁ。

 この時点で、すでにその筋では

 若干の知名度があるってことか。

 

 「おそらくですが、

  この娘は、甲斐田良英氏の落胤です。

  そして、自らの野望成就を兼ねて、

  ある重大な実験に供そうとしている。」

 

 「!」


 出石御影、めっちゃ鋭い眼になったな。

 わかってるわけだ。内容を、意味を。

 

 「……

  さっきから出てる、

  甲斐田良英ってのは、ナニモンだ?」

 

 「……あぁ。

  お前さんが現役を離れてから、

  味生みしょうのトコへ出入りしてる若い都議だよ。」

 

 「味生、だと?」

 

 むしろこっちが知らん名だ。

 おそらく、甲斐田良英に簒奪される黒幕。

 

 「あいつらなら、やりかねねぇな……。

  手段を択ばねぇ奴らだ。」

 

 おお、なんか、

 知らんきな臭さを感じる。

 ある意味では一番ゲーム的な話だが。

 

 「それをどうしてお前が知ってるんだ?」

 

 「……。」

 

 黙って、ニヤって笑ったら、おぞけづいた顔をされた。

 そんなに怖いか、この顔。

 蝿豚ってどっちかっていったらコミカル悪役なんだけど。

 

 「言いましたよ、ね。

  ソースは、開示、できない、と。」

 

 「……。

 

  ちっ。

  

  ま、いい。

  それで、この可愛い娘をどうやって掻っ攫う気だ?」

  

 それについては、

 一周廻って、

 

 「王道で良いのではないかと。」

 

 「王道?」

 

 「特別養子縁組、です。」

 

 甲斐田良英は、徹底的な合理主義者で自己中心主義。

 自分にとって邪魔になったものは排除するが、

 自分よりも強く、手出ししづらいものはすぐに手を引っ込める。

 

 この仕掛けは、リトマスになる。

 いまの甲斐田良英が政府各所へ及ぼせる力量と、

 甲斐田良英が、自分の落胤にどの程度の関心を持っているかの。


 ……まぁ、

 こっちの周りにゃ夫婦キレイにそろってる奴はいないから、

 それも含めて探してもらわないといけないんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る