第25話


 ふぅ。

 出石御影、帰ったか。

 

 まさか、日吉綸太郎が女だったとは思わなかった。

 古谷綸子、か。

 ほんとに保護、できるのかな……。


 「……俊也。」


 ん?

 

 「なんでしょう。」


 「……お前に、どうしても

  話しておかなきゃなんねぇことがある。」


 やけに真剣な顔だな、時之助。

 

 「……はい。」



 

  「晴海を殺したのは、

   味生義純みしょうよしずみの一味だろう。」



 

 ……

 

 え?

 

 「蓋然性がかなり高い、

  っていうだけだがな。

  

  前も言ったが、

  晴海を殺す動機のあるやつはいっぱいいる。

  だが、手段を持ってる奴は、そう多くない。

  

  味生義純には、その手段は豊富にある。

  衰えたといっても、フィクサーだからな。」

 

 フィクサー。

 めっちゃそれっぽい話だな。

 

 「お前も知ってると思うが、

  味生義純は純正協会の総裁だ。

  右派人脈に深いネットワークを持ち、

  政界、財界に持ち上がるやっかいごとを処理してきた。」

 

 ぜんぜん知らんけど。

 要するに、〇族系〇侠組織の親玉ってとこか。

 

 「ポイントは、

  政治家を使にある、ってことだ。」

 

 ん?

 

 「通常、味生義純のような立場の人間は、

  やっかいごとが持ち込まれてからそれを処理する。

  しかし、味生義純はな、筋金入りなんだよ。


  祖父の代からの政治家一家にとって、

  味生義純は、世話になった恩人、

  足を向けられない人になっちまってる。」

 

 うわ。

 世襲の弊害が、こんなところにまで。

 

 あぁ。

 だからこそ、そのネットワークを牛耳れた甲斐田良英が、

 当選3回で首相を目指せてしまったわけだ。

 

 「あの男は、戦前からの亡霊でな。

  民族の物理的改造と進化をやれる、

  という確固たる信念を持ってる。」


 ……

 満州とかアウシュビッツみたいな話かよ……。

 遺伝子操作とか誘拐とかいっぱいしてそう……。

 

 「東京JL病院は、

  奴らの実験場の一つだな。

  

  それで、だ。」

 

 ……ん?

 

 「……

  こないだ、菜摘を騙した奴らがいただろう。

  あれは、晴海への意匠返しだったかもしれん。」

 

 ……え?

 

 「晴海が協力を拒んだ時、味生義純に

  『末代まで呪われるがいい』

  と言われたようだからな。」

 

 ……は?!

 じゃ、じゃぁ、それを実践した、ってわけか。

 

 「……

  とんでもねぇ敵、なんだよ。

  この周囲の土地一帯を買い占めるなど、

  奴らにとっては造作もねぇだろうよ。」

 

 ……。

 

 「……


  お前、いまからでも遅くねぇ。

  安全に暮らしたけりゃ、

  ここを離れて、田舎にでも隠れてろ。」

  

 ……田舎、ねぇ。

 その田舎で、月宮雫は陥れられたんだけどな。

 第一、生活基盤ないじゃん。


 「俺の知り合いの刑事の

  遠い親戚ってことにしてやれるぞ。」

 

 ……そそらないなぁ。

 こんな聖人たちに囲まれるなんてありえないし。

 そもそも。

 

 「僕は、アルコール中毒の義父に殺されるのを待つだけの、

  無力な子どもでした。」


 「……。」

 

 「あのままあの部屋にいたら、

  義父に殺されるか、義父を殺して収監されるかのいずれかです。

  僕は一度、死んでいるのも同じなんです。」


 「……。」

 

 「だから、大丈夫です。

  お気遣い頂き、感謝します。」

 

 ……。

 っ!

 

 で、でこぴん??

 

 「……

  ったく。

 

  ガキが、

  殺される覚悟できてる顔なんか

  すんじゃねぇよイケボ。」


 ……

 あぁ。

 めっちゃ優しい眼でみてきやがって。


 ……なんか、泣きそう。

 こんなの、女なら、もう、堕ちてるじゃん。

 色気をオトコに魅せられても困るんだけど。


 ……

 あ。

 携帯電話、鳴ってる。

 

 「……

  すまんな、出るぞ。」

 

 「はい。」

 

 「もしもし、俺だ。

  あぁ。

  

  客? いねぇよんなもん。」

 

 事業体として成り立ってるのが心底不思議だ。

 人件費計上してないのかもしれない。

 

 「……

 

  は?

  

  はぁ??

  ほんとうか?

  

  ……

  あぁ。


  わかった。

  お前も調べてくれ。

  

  そうだな。

  うん。

  

  じゃあな。」

 

 ぴっ

 

 「……とんでもねぇことになったぞ。」

 

 は?

 

 「東京JL病院の地下で、

  大規模な爆発騒ぎだと。」

 

 ……はぁっ?!


*


 <次のニュースです。

  昨日未明、東京都にある基幹病院、

  東京JL病院の地下で、大規模な爆発がありました。

  現在のところ、怪我人、行方不明者等の総数は不明ですが、

  少なく見積もっても、50人前後に登るとの推計も出ています>

 

 うわ。

 全国ニュースだ。

 

 <事前にテロリストによる爆破予告もあることから、

  警察では、人為的な爆破事件の疑いも視野に入れながら

  捜査を進めているとのことです

  

  では、現場から>

  

 ぴっ

 

 あれ?

 

 「こんなもん見てもわかりゃしねぇよ。

  何を報じるか、ほどほどに調された後だからな。」

 

 あら。

 元官僚が、そんな正直なこと言って。

 

 「んだと。」

 

 ……は?

 

 「全員じゃねぇが、

  少なく見積もっても、10人弱。

  現場から、忽然と消えたそうだ。」

 

 ……あの、

 それは、どういうことなんでしょう。

 

 「知るか。

  向こう捜査本部が一番混乱してたぞ。」

 

 う、うわぁ……。

 

 「さすがのお前も

  なにも知らんって顔だな。」

 

 知ってるわけないだろ。

 っていうか、この時点でこんな事故があったなんて知らんし。

 まぁ、あの伏魔殿だから、何度事故を起こしてもおかしくはないけど、

 こんな規模なら、原作の中で葉山匠の回想シーンとか

 

 はやま、たくみ。

 

 !!!!

 

 「あ、あのっ!」

 

 「な、なんだよ。

  今度はなんだってんだ?」

 

 「その、消えた人って、

  名簿とか、わかるんですか?」

 

 「はぁ? バカかお前は。

  わかるわけねぇだろう。

  あれは世の中に施設なんだよ。」

 

 だよ、なぁ……。

 

 なにせ、破壊神になっちまう奴だ。

 犠牲者の中に入っていたほうがいいのか、

 そうでないほうがいいのか、わからんわ。

 

 とか考えてしまう時点で、

 俺も、ご都合主義の月宮雫とそう変わらんな。

 全員を救う、なんて、できるわけないんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る