第23話

 

 「………。」

 

 これが、最低ライン。

 これを呑めなければ、話は無かったことにする。

 

 「試合にしか、出さない、か。」

 

 「ええ。

  調整と称して貴方たちのドロドロした人間関係に晒すなってことです。

  肩身、狭くしたの、どちらさまでしたっけ?」

 

 「ぐっ。

  わ、わかった。

 

  ……先鋒と大将で、出さない?!」

 

 「ええ。

  重責を担わせない、ってことです。」

 

 「だ、だが」

 

 「暴言吐いて追放したの、

  貴方たちのほうですよね?」

 

 「んぐっ!

  わ、わ、わたしじゃないっ!」

 

 「連帯責任でしょ。

  引き止めもせず。」

 

 「……わ、わかった。

  

  で……、

  勝敗に責任を負わせない?」

 

 「ええ。

  負けたのはお前のせいだ、

  とか言う輩が一人でもいるなら、切腹させてください。」

 

 「お、おい。」

 

 「冗談ではありませんよ?

  衆人環視の前で追放して、

  こっわーい御父上が


 「わ、わ、わかったっ!!」

 

 ……最後、知りもしない

 こっわい御父上をちらつかせちゃったよ。

 この怖がり方見ると、マジコワなんだろうな。

 

 「……

  なんだ、この最後のやつは。」

 

 ああ。

 それは、ね。


*


 「……

  できれば、試合、

  観戦していただきたかったんですが。」

 

 無理だよ。

 いったい、どういう面を下げて

 知りもしない人の群れの中にいるんだよ。


 「すみません。

  当日、大切なお客様をお迎えしないといけないので。」

  

 なんていうか、寝耳に水の話だけど、

 断る口実ができて、ほんと良かったわ。

 

 「……承っております。」

 

 あぁ、なんだろう。

 仕草とか、表情の雰囲気がめっちゃ可愛くなってる。

 最初の頃、無表情に近かったのに。

 

 これでどうして告白とかされないのかな。

 剣道やってると近づきがたいとか?

 確かにあの坊主女には恐怖を感じたが。

 

 「……まえたい、のに。」

 

 ん?

 

 「……ふふっ。

  

  なんでもありません。

  さ、

  今日から、もう

  厳しめのメニューにしますからね。」

 

 は?

 なん、だと……っ


*


 ……うぐぐ……

 

 「お前、

  全身筋肉痛って、年寄かよ。」

 

 年寄みたいなもんなんですよっ。

 っていうか、段差の「差」が激しすぎる……。

 もうちょっとマイルドな階梯にして欲しかった。

 跳躍素振り1000本一気は、ないわぁ……。

 

 ……まぁ、向こうは全国レベルの剣士なわけだから、

 これでも加減してるとか思ってるんだろうなぁ……。

 

 ゴルフで言えば、向こうは68くらいのレベル。

 こっちは140くらい。

 そりゃ、感覚が分かるわけねぇわ。

 

 うぐっ!?

 

 「ああもう。

  これ塗って、すこし寝てろ。

  このままじゃ話になんねぇぞ。」


 !

 や、やった。

 夢にまで見たインドメタシン配合じゃん。

 

 「……

  前から思ってたが、

  お前、ひょっとして、

  中身、おっさんじゃねぇのか。」

 

 そうですよとでも答えたら

 ドン引きするだけだろうが。


*


 「お前の話を混ぜながら別ルートで打診したら、

  県としても、違和感があったようでな。」

 

 児童養護施設としては、

 寄付金収入に少し不明朗なところがあるらしい。

 

 「実質的に、利益にあたるんじゃないかと。

  まぁ、それは県の連中に任せるとして、だ。」

 

 ばさっと投げられた書類の束。

 

 !

 

 「お前さんの御所望の品、だな。」

 

 しゃ、写真付き、だと!?

 

 す、凄いな。

 国のシステムが動くというのは、こういうものか。

 

 「どうやって入手したかは聞くなよ。

  こっちにもいろいろ都合ってもんがあるからな。」

 

 ……

 

 4歳から6歳の基準でピックアップして、

 探すのは、「綸太郎」の名を持つ少年。

 苗字は、おそらく変わっているとしても、

 名前は変わらない可能性が残っている。

 

 ……多い、な。

 この3年だけでも、ぜんぶで60人、か。

 

 「ちょっとでかいくらいだな。

  児童養護施設としてはよくある規模だそうだ。」

 

 うわ……。

 これは確かに、子ども一人ひとりまで見られない。

 施設定員1~3人の家庭養護施設がいかに手厚いサービスか分かるわ。

 

 ……

 枯草の中の針に比べれば探しやすくはあるものの、

 この全員を救済するのは無

 

 ……

 え。

 

 思わず、二度見する。

 

 ……

 え゛っ!?

 

 「ど、どうしたんだ、お前。」

 

 慌てて全員を、もう一度見直す。

 

 ……

 いない。

 

 この、しか。


 

  「古谷子」

 


 い、いや、

 名前が違うくらいは、想定はしてたけど、

 確かに、美形だけれども、

 性別が、変わるなんて。


 で、

 でも、


 ぱっちり二重瞼だし、

 鼻、すっと高いし、

 顎がしゃっとしてるし、

 

 こ、この、顔、

 なんだよっ!

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