第14話


 ぶっ!?

 

 あ、

 あの、

 頼りなさそうな眼鏡の優男は。

 

 「ま、間崎律と申します。」


 ら、ら、

 ラスボス続編じゃねぇかっ!!

 

 な、なんで。

 なんで公立中学の保健医の後任がコイツになるんだよっ!

 

 え?

 ……

 

 「ご、ご紹介いただいたように、

  スクールカウンセラーとして、参りました。」

 

 あ、

 あぁ、なるほど。

 

 非常勤、委嘱で、

 来るのは週2だけ、か。

 

 いや、そうだとしても、

 いまお前、大学院生じゃねぇのか?

 い、いろいろ、どういうことなんだよっ?!


*


 しかも。

 

 「きみが、是枝俊也さん、ですね。」

 

 どうして、こういうことに。


 「すみませんね。

  こちらへおよびたてしてしまって。」

 

 原作通りの腰の低さ、か。

 20代だから、如才ない部分がなく、

 ちょっと気弱そうなだけになっちゃってるな。

 

 「川瀬先生と関係のあった生徒さんを、

  ケアをして欲しいと、依頼がありまして。

  あ、お菓子、召し上がられますか?

  美味しいと思いますよ。」

 

 「いえ。お気遣いありがとうございます。

  どうかおかまいなく。」

 

 ダイエット中だっての。

 まぁわからんわな、ふつう。 

 喜んでバクバク食いそうに見られるだろうよ。


 「川瀬先生と関係のあった生徒は、

  たくさんおられると思いますが。」

 

 「ええ。

  人気があった先生のようでしたね。」

 

 やっぱり、か。

 

 「でしたら、

  そちらの方々を先にして頂いても。」

 

 「あはは。

  これはまぁ、順番通りなんです。」

 

 なんのだよ。

 五十音順じゃないことだけは確かだな。

 

 「実はですね、

  川瀬先生の日記の中で、

  きみのことが書かれていたんです。」


 え。

 

 げっ。

 

 「それも一度ではありません。

  でしたら、親しかったようだと思いまして。」

 

 な、なんだよ、それ。

 体重測定してただけだぞ?

 なんでそんなことになってるんだよっ。

 

 あぁ、もう。

 なら、話、逸らしてやる。

 

 「間崎先生は、川瀬先生と

  どのようなご関係で?」

  

 「え?」


 は?


 「あ、いや、すみません。

  その、先生って、呼ばれなれなくてですね。」


 あ、あぁ。

 そういえばこういうやつだったなぁ。


 「うーん、そうですね。

  研究者としては、従姉弟のようなものですね。」

 

 あぁ、明後日の内実を

 率直に言い始めるあたり、もろに間崎律じゃねぇか。

 

 「先生の直系だと、

  六条晴海さんになりますか?」

 

 「……どうして、あの方のお名前を。」

 

 うわ、

 コイツのナヨっとした雰囲気のせいで、

 つい踏み込んじまった。

 

 「川瀬先生から、少しだけお伺いしていました。」

 

 「……そう、ですか。

  やはりきみは、かなり親しかったようですね。」

 

 ぶべっ。

 せ、盛大な自滅じゃねぇかっ。

 

 「ぼくはね、

  まだ、信じられないんです。

  川瀬さんは、自殺するような方ではないと。」

 

 あれ?

 自殺、ってことになってるのか?

 

 「自然死とお伺いしていますが。」

 

 「ありえません。


  健康そのものの方でしたし、

  アナフィラキシー反応を疑うような余地もなかったと聞いています。」

 

 えらく強く言うなぁ。

 ナヨナヨしてる癖に、

 こだわってるところ、めっちゃ譲らないんだよな。

 まぁ、その解釈は俺と一致してるよ。

 

 「間崎先生は、

  川瀬先生の死因をお調べに来られたのですか?」

 

 「……

  参ったなぁ。

  この話が出た時に、志願してきたことは確かです。」

 

 ほんと、率直に喋るよな。

 生徒には人気だろうが、上の覚えは悪くなる。

 だから、闇深い指導教官に穴を掘られて学会を追放される。

 

 「ただ、死因の追及ができるほど、

  親しくさせていただいたわけではないんですよ。」

 

 となると。

 

 「研究されていたことに、ご関心があって?」

 

 「……ええ。そうです。

  

  って、

  これじゃ、ぼくのほうが尋問されてるみたいですね。」

 

 「尋問しに来られたんですか?」

 

 「うわっ。

  あ、いえ、それは言葉の綾ですよ。

  ぼくはただの心理カウンセラーですから。」

  

 なんだよ、この脇だらっだらの甘さ。

 なるほど、これがラスボスになるとは、誰も思わんわな。

 

 いや。そんな風に侮ってはいけないのかもしれない。

 六条晴海を俺が知っていることを

 うかうか相手方に知られてしまったのだから。

 

 これが、コイツのスタイルだとしたら、

 とんでもない面の皮だということになるが。

 

 「あれ?

  このお菓子、ぼくが買ったやつじゃないですね。

  前の娘に持ってかれちゃったのかな……。」


 ……

 油断しそうになるわ、マジで。


*


 「……

  悪くは、ないですね。

  上半身の揺れも減ってきました。」

 

 ほっ。

 

 「継足なく技を出せるのは、

  特性かもしれません。」

 

 気配を殺すのは日常だったからな。

 

 「いいでしょう。

  今日のところは、あがって頂いて。」

 

 「ありがとうございます。」

 

 ふぅ。

 つっかれた。

 やっと風呂に入れる。

 あの広い風呂を実質独り占めできるのは、無上の贅沢だ。


 「……その。」

 

 ?

 いつもみたく、自分の稽古を始めるかと思ったけど。


 「あの、ですね。

  ちょっと、その、

  ご迷惑でなければ、

  一緒にいって頂きたいところがありまして。」


 ?

 

 「どちらまで。」

 

 「え、ええと、

  神保町です。」

 

 じんぼうちょう?

 

 「古書店街、ですか。」

 

 「!

  そ、

  そ、そうですっ。」

 

 あぁ。

 なんとなく、目的はわかるが。

 

 「し、調べものがありまして、ですね。

 

  わ、わたしのまわり、

  そういうの、興味なくてですね。

  どうせなら、そのっ。」

 

 古本屋街、か。

 そういえば原作でも出てきたな。


 いまだったら、「古本屋ネット」で済みそうなものだが、

 そんなものはないよなぁ。


 まて、よ。


 いまって、12年前だから、

 


 !?

 そ、そうだ。

 ネットなんか探さなくても、


 い、いや。


 こ、

 これは、

 ひょっとしたら、


 「その、

  こ、交通費、出しますのでっ。」


 ぐらっ!

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