第22話 次なる冒険へ

 この日はアンリとリリアが宿泊している宿屋の前で夜を明かすことにして、僕は一旦町から出て食事を再開する。


 町の中で食事をしようと思ったら街路樹を一本か二本丸裸にしてしまうからね、食事は外でしたいのだ。


 町の外に広がる平原で暗くなるまで草を食んだ僕は、予定どおり町に戻って夜を明かすことに。


 宿屋の前に足を運ぶと、早速リリアが窓から顔を出した。


「お帰り~タイゾーさん!」

「ただいま、なのかな」

「お腹いっぱいになったかしら?」

「それはなんとかなったぞう」

「それは良かったわ。夜はここでゆっくりしていってよ」


 リリアの言葉に甘えて、僕は宿屋の前で身体を横たえる。


 こうして寝転がれるのも町の中だからである、危険だらけの外だとこうはいかない。


 そうしてゆっくり夜を明かしたところで、僕はリリアとアンリの二人と一緒にギルドへ足を運ぶことにした。


「付き添いありがとね、タイゾーさん」

「これくらいお安いご用だぞう。それに僕もギルドの一員としてちょっと依頼を受けてみたい気もするからね」

「この前の公爵様の護衛で懐が潤ったんじゃないのか?」


 疑問を浮かべるアンリに、僕は神妙に答える。


「それもそうだけど、なんとなく僕の力が必要とされる予感がするんだ。シェリーさんも報告に来た後だしね」

「なるほどな。何にせよ俺たちの手伝いをしてくれるのはありがたいよ」

「力になるよ、アンリ」


 僕が長い鼻で力こぶを作ってみせると、アンリとリリアは快活に笑った。


 初めは働きたくないからゾウに転生させてもらったのに、我ながら変わったものだぞう。


 そんなことを話しながら足を運んだギルドで、まずアンリとリリアが建物の中に入る。


 いつものことながら少し待っていると、アンリたちと一緒に出てきたのは聖女のシェリーさんだった。


「あれ、シェリーさん。どうしてここに?」

「実はねタイゾウさん、今回の蠱毒の森の調査に騎士団だけでなく冒険者の力も借りることになったの」

「そこで俺たちも蠱毒の森の調査に同行することになったんだ」

「あたしはちょっとイヤなんだけど……頑張るわ」


 リリアが嫌そうな顔してそう言うものだから、僕はちょっと苦笑してしまう。


 そういえば毒虫がうじゃうじゃいるって、ゾクッと身体を震わせてたもんね。


 するとシェリーさんが改まったようにこんなことを頼んできた。


「お願いタイゾウさん、貴方の力も貸してほしいの。この依頼受けてくれるかなあ?」


 なるほど、予感はこれだったのか。そういうことなら力になれそうだぞう。


「お安いご用です。僕で良ければ力を貸しましょう」

「ありがとうタイゾウさん! これで百人力だよ~」


 蠱毒の森の調査に同行することになったところで、僕たちは準備に取りかかることにした。


 そこでやってきたのはこぢんまりとした町の薬屋である。


「ここで傷薬や毒消しを買うのよ」


 そう解説したリリアが薬屋の扉を叩くと、中から小柄な老婆が出てきた。


「あらいらっしゃい。――おや、見ない顔が多いねぇ」

「お婆さん、傷薬と毒消しをこれくらい用意してくれないかしら?」

「はいはい、ちょっと待ってておくれ」


 ちょっと待つと店主の老婆がかご一杯の青い小瓶と紫色の小瓶を用意する。


「これでどうだい」

「ありがとうお婆さん、これでいいわ」


 そう言ってリリアが懐から銀貨を数枚取り出して、老婆に手渡した。


 ちなみにお金は僕たち全員で出しあっての割り勘である。


「はい、まいどあり~」


 そうして薬を買った後、僕たちはその他必需品を揃えに町の市場を回った。


「これで全部だな」

「そうね」


 品を揃えて満足した感じのアンリとリリアの二人に、シェリーさんが控えめにこんなことを。


「あの……。傷の手当ても解毒もわたしの魔法でできるのですが」

「それは分かるけど最低限の手当ては冒険者なら当たり前のことですからね」

「そういうことっ。でももし薬じゃどうにもならないときはよろしくお願いします、聖女様っ」

「そ、そうだね。それこそ聖女の存在意義だものね」


 ウインクしてお願いするリリアに、シェリーさんは豊満な胸の前で健気に腕を構えて返事する。


 そして翌日、僕たちはギルドの前で騎士団を待つことに。


「いよいよね、あぁ背筋がゾクゾクしてきたわ……!」

「安心しろリリア、お前のことは俺が守るから」


 背筋をゾクゾク震わせるリリアの華奢な肩に、アンリが腕を回して元気づけた。


 うーっ、アンリもいいお兄ちゃんだぞう!


「それではみんなよろしくね~」

「「もちろんです、聖女様」」


 のほほんと手を振るシェリーさんに、アンリとリリアが片膝をついて信心を示した。


 おっと、僕もそれっぽいことした方がいいのかな?


 僕もお辞儀をしたところで、仲間を何人も引き連れた騎士団の人と思われる若い男の人が二人やって来る。


「皆のもの、集まってくれて感謝する。オレはレオン、騎士団の代表としてこの調査に赴くことになった」

「私はアイク、よろしくお願いしますね」


 どうやら金髪の男がレオンさんで、黒髪の男がアイクさんみたいだ。


「今回は聖女様と冒険者にも力を貸してもらう。お互い頑張ろう」

『おー!!』


 レオンさんの一声でかちどきをあげる、アンリとリリアに騎士団の皆さん。


 こうして僕たちは蠱毒の森に向けて出発することとなったんだ。

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