第18話 王都創立パーティー
結局僕は朝まであまりよく眠らず、パピヨンお嬢様の寝姿を潰さないように気を付けつつ見守り続けていた。
「ん、んん……っ」
むずむずと表情を動かした後、パピヨンお嬢様が上体を起こして腕を天に掲げる。
「おはようございます、お嬢様。よく眠れましたか?」
「ごきげんようなのじゃタイゾウ。うむ、わらわはよく眠れたぞ」
「それはよかったです」
ニコニコしながらそう言うパピヨンお嬢様に、僕はほっこりと微笑んでから彼女の頭や身体にかかっている干し草を鼻で払った。
「しかし少々汚れてしまいましたね。本当に大丈夫なのでしょうか?」
「それは問題ないのじゃ。これからノエムに身体をきれいにしてもらうからの」
そういえばそんなこと言ってたね。
パピヨンお嬢様を踏んづけないよう慎重に僕が立ち上がるのと同時に、ノエムさんが駆けつけてくる。
「お嬢様、お迎えに参りました」
「おお、ノエムか」
迎えに来たノエムさんに駆け寄って抱きつくパピヨンお嬢様だけど、ノエムさんは鼻をつまんで顔をしかめた。
「お嬢様……今日はパピリオン創立パーティーなのにお身体を汚してはいけませんね。さあ戻りましょう」
「はーい、なのじゃ。またの、タイゾウ。今夜は楽しみにしているのじゃ!」
手を振りながらこの場をあとにするパピヨンお嬢様に、僕は長い鼻を振り返す。
「……やっぱり臭いよね、僕って」
ノエムさんの露骨なしかめっ面が心に引っ掛かる僕だったけど、その少し後にさらなる驚きが待っていたんだ。
「――というわけでタイゾウ殿、今日の創立パーティーのパレードで貴殿を御披露目しようと思う」
「えっ、僕がパレードに!?」
バタフライ公爵から伝えられたまさかの事実に、僕はビックリ仰天。
「せっかくタイゾウ殿が来てくれたんだ、貴殿も創立祭に参加してもらおうと思ってな」
「きっと皆驚くのじゃ!」
「は、はあ」
まさか僕が創立パーティーに参加するなんて。
まあ、パーティーの間ずっと暇してるよりはマシかも知れないけど。
聞かされた後バタフライ公爵たちはパーティー出席の準備に取りかかるため場所を外し、僕はまたまた馬小屋で待ちぼうけ。
……このホテルもだんだん慌ただしくなってきたな、宿泊してる要人たちが創立パーティー出席の準備に明け暮れているんだろう。
それからしばらくすると、ノエムさんがやってきて僕を馬小屋から出してくれた。
「タイゾウ様、こちらへ」
「ありがとうございますノエムさん。やっとなんですね」
正直ずっと馬小屋で待機しているのも退屈で、身体を揺らして気分をなだめるのがやっとだったんだ。
ノエムさんに連れられて歩くうち、王都全体がお祭り騒ぎになっているのが見てとれる。
さすが王国創立のパレード、規模と賑わいが半端じゃないぞう。
そして僕はノエムさんの先導で、豪華絢爛な装いの男の人と向かい合うバタフライ公爵の隣に連れてこられた。
「国王陛下、こちらがアフリカゾウのタイゾウ殿でございます!」
仰々しい公爵の紹介によって、集結していた貴族たちの目が一斉に僕へ向く。
「何だあの巨大な動物は……?」
「聞いたこともない名前だが……」
疑問ごもっともですよね、どうやらこの世界ではゾウってあんまり一般的な動物じゃないみたいだし……。
戸惑う僕をよそに、バタフライ公爵は説明を続ける。
「こちらのタイゾウ殿は大きくて力持ちで、それでいて人と意志疎通できる聡明さも兼ね備えている、素晴らしいお方でございます!」
そんなに誉められると普段なら照れるところだけど、周りの張り詰めた空気で緊張してそれどころじゃないぞう。
そんな僕に対して、国王陛下と呼ばれた豪華絢爛な装いの男の人が歩み寄ってきた。
「ほう、そなたがタイゾウ殿か。風の噂で聞いておったぞ、近頃このパピリオン王国で活躍しているとな」
「滅相もございません」
「おやおや、喋るのだな。おっと、申し遅れた。余はトリバ・カルネ・パピリオン、この国の王である」
やっぱり王様だった……!
まあ王冠被ってるから絵に描いたような王様ではあるんだけどね。
すると今度は細身で赤いドレスを身にまとった少女が前に出てきた。
「あなたはタイゾウ殿!」
「あれ、あなたは確かウィンミル王女様……」
黒く艶やかな髪に凛とした目付き、間違いない。
「おや、知っておったのかウィンミルよ?」
「はい。先日は私の手合わせに付き合っていただいたのです。さすがの強さでした父上」
「そうか」
ウィンミル王女様の報告に、国王陛下は微笑ましそうに目を細める。
「ウィンミル王女様もおきれいですね、ドレスもよく似合ってます」
「ははは、まさか動物のお前にお世辞を言われてしまうとはな」
「お世辞などではございません! 本当にお美しいと思っているんです!」
「なっ!?」
僕の力説にウィンミル王女様はポッと顔を真っ赤にしてしまった。
あれ、なんか変なこと言っちゃいました?
「おーい、タイゾウ~!」
するとそこへパピヨンお嬢様もドレスの裾を少し上げながら駆け寄ってくる。
「やはりお主は注目の的じゃな! わらわも誇らしいのじゃ!」
「それはどうもです」
やっぱりパピヨンお嬢様は無邪気で可愛らしいぞう。
そんな僕とパピヨンお嬢様とのやり取りを見ていた貴族たちも、恐る恐るだけど僕に近寄ってきた。
「本当に不思議な動物だな……」
「だがよく見れば親しみの持てる面だ」
「あはは……」
そうして僕は貴族や王族の皆様と少しの間触れ合うこととなったんだ。
そんなこんなでまたまた夜を迎えようとした頃、僕は休憩として馬小屋へ戻ることに。
「お疲れ様です、タイゾウ様」
「それはどうもですノエムさん。……何か失礼なことはなかったですよね?」
「ご心配には存じません。貴族も国王陛下も皆大変お喜びになっていました」
そっか、それなら良かったぞう。
「それではボク、お嬢様のもとへ戻りますので」
「分かりました、よい夜を」
移動するノエムさんに僕は長い鼻を振って見送ると、また独りになってしまった。
「日中あんなに賑やかだったのがウソみたいだぞう」
満天の星空を眺めながら、僕はパレードでの賑わいを思い返す。
こんなに楽しかったのはいつぶりだっただろうか、前世でももう思い出せないや。
そうして僕は楽しかった思い出を噛み締めながら眠りについたのである。
翌日、バタフライ公爵がビオレに帰還するとのことで僕たちも出発することになった。
「昨日は楽しませていただいた。愉快なお仲間を連れてきていただき、誠に感謝する」
「そのお礼はタイゾウ殿本人に言ってあげてください」
「そうだな。タイゾウ殿、余の元に会いに来てくれてありがとう」
「いえいえ滅相もないですよ」
にっこり笑う国王陛下に、僕も笑顔のつもりで謙遜する。
すると今度は同じく見送りに来ていたウィンミル王女様も口を開いた。
「タイゾウ殿、短い間ではあったが世話になった。また会える日を楽しみにしているぞ」
「僕もですよ、ウィンミル王女様」
鼻で王女様の手と握手したところで、僕は荷車を牽いて王都を後にすることに。
「ミル姉~! 達者での~!!」
荷車の窓から身を乗り出して手を振るパピヨンお嬢様を、僕は後ろ目で微笑ましく見守る。
行きでは崩れてた橋が修復していたこともあってか帰りは何事もなく進み、数日ほどでビオレに帰ってきた。
入り口から入ると早速出迎えてくれたのは、以前お世話になったアンリとリリアの兄妹二人である。
「久しぶりだな、タイゾウさん」
「タイゾーさーん! お帰り~!」
「ただいまだぞう、二人とも」
鼻を上げて挨拶する僕に、アンリとリリアが駆け寄ってきた。
「王都はどうだった!? ねえ、タイゾーさん!」
「こらこらリリア、そんな畳み掛けたらタイゾウさんも困ってしまうだろ」
アンリに咎められてリリアはペロッと舌を出す。
「それじゃあ僕はバタフライ公爵様とお話ししてくるから、また後でね」
「ああ」
「はーい、分かったわ!」
アンリとリリアに見送られて僕は公爵様のお屋敷に足を運んだ。
庭に移動した僕は、バタフライ公爵に話を切り出される。
「此度はご苦労であった。世話になったぞ」
「いえいえ、僕もいろいろ楽しかったですよ」
手を組んで真面目に礼を言うバタフライ公爵に、僕は平然と取り繕った。
すると公爵がが改まったようにこんなことを言い出す。
「時にタイゾウ殿、これからは私たちの元で暮らさないか?」
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