第14話 王都ファルファーレ

「す、すごい……!」


 目の前に広がる巨大な町並みに、僕は目を奪われた。


 賑やかな人通りもそうだけど、古きよき石造りの建物が規則正しく立ち並ぶ様子もビオレを軽く超える規模である。


 さらに放射状に広がる町の中心にはまるでエッフェル塔か東京タワーを思わせる高い鉄塔が一つそびえ立っていた。


「ここがパピリオン王国の首都ファルファーレだ」

「これが王都……!」


 アフリカゾウの巨体でさえちっぽけに思えてしまうくらい、王都の規模はとてつもないもので。


「それでは行こうか、タイゾウ殿」

「あ、はいっ」


 バタフライ公爵に促されて、僕は荷車を牽きながら賑わう王都の表通りを歩く。


 それにしてもすごい人の数だなあ、見慣れた普通の人間だけでなく獣の耳がついた人とか角が生えた人とかいろんな人種がいるようだ。


 これが亜人って奴なのかなあ、そういえばノエムさんも鬼人種族だって言ってたっけ。


「……どうかいたしましたか、ボクの顔に何かついてます?」

「いえ、なんでもないです」


 ノエムさんがモジモジしてるものだから僕は咄嗟に目をそらした

 おっと、あんまり女の子をじろじろと見るのはマナー違反だぞう。


 そんなバリエーション豊かな人々を眺めながら進んでいたら、ふと何かのいざこざが目についた。


「タイゾウ? どうしたのじゃ?」

「お嬢様、少々お待ちください」


 パピヨンお嬢様に一言断った僕が荷車を外してその現場に足を運ぶと、そこでは兎の耳がついた若い女性が二人の青年に囲まれていた。


「おいウサミミちゃんよぉ、俺たちと遊ばねえか?」

「兎獣人は年中お盛んなんだろ? なら俺たちの相手もしてくれよ」


 邪な態度で詰め寄ってくる二人の青年に、兎獣人の女性は困惑を露わにしている。


「いえ、あの……そういうの困るんですよ……」

「ああん? 獣人風情がナメた口聞いてんじゃねえよ!」


 すると青年の一人がいきり立って手を振りかざしたので、僕がすかさず巨体で割り込んだ。


「おっと、レディーに暴力を振るうのは感心しないぞう」


「な、なんだこのデカブツはぁ!?」

「しかも喋ったぞこいつ!」


 突然躍り出た巨体の僕に、青年たちは目を白黒させている。


 もちろん兎獣人の女性へのフォローも忘れずに。


「兎のお嬢さん、もう大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます……」


 だけど青年たちは眉をつり上げて、さらに悪態をついてきた。


「ああん? お前その獣人の味方すんのか?」

「どうやら人間様の格を教育してやんねえとだよなあ!」


 そして青年二人が一斉に殴り込んでこようとした時だった、さらにノエムさんも間に割って入る。


「なっ!?」


 二人の拳を両手で受け止められて、青年たちは驚愕を隠せない。


「どうかお引き取りください。さもなくばどうなるか、分かりますね……?」

「こ、この化け物が~~~!!」


 そう言い聞かせながらノエムさんが全員分の拳を強く握りしめると、青年たちは悲鳴を上げて逃げ出した。


「化け物、ですか。まあ鬼人も一般人から見ればそのような存在ですよね」


 自分の手を見つめてしゅんと落ち込むノエムさん。


「もしかして気にしてます? あいつらもひどいこと言いますよね……」

「いえ、こういう言葉はもう慣れてるので平気です。そう、ボクは平気です」


 そう言うノエムさんだけど、がっつり気にしているようだった。

 そりゃあ化け物だなんて言われたらショックだよね……。


 そんなことを感じてたら、助けたウサミミの女性が控えめに声をかけてきた。


「あの……助けていただきありがとうございます」

「あ、いえ。どうかお気になさらず。――それじゃあ行きましょうかノエムさん」

「そうですね。お嬢様と公爵様も待たせてますし」


 ウサミミの女性を置いて僕はノエムさんと一緒にバタフライ公爵たちの元に戻る。


「むぅ、二人とも遅いのじゃ~!」


 戻るとすっかり膨れっ面なパピヨンお嬢様が待っていたので、僕は平謝りしておいた。


「すみませんお嬢様。少々放っておけない事柄がございまして」

「まあよい、それでこそタイゾウじゃからの」


 ん、それってどういう意味?


 疑問に思ったのもつかの間、僕は改めて荷車を牽いて公爵様たちが宿泊する宿へと向かう。


 バタフライ公爵の案内で進むと、都の中央辺りに見るも豪華そうなホテルを思わせる建物があった。


「あそこに宿泊するんですね」

「まあな。……もっと質素なところでいいと毎回言っているのだが、国王陛下はここに泊まれと聞かんのだ」


 あー、公爵の希望ではないのね……。


 苦々しい顔でそういうバタフライ公爵に、僕は苦笑した。


 でも目の前にそびえ立つホテルみたいな宿屋は巨大なアフリカゾウの僕が見上げるほど大きくて、黄金の壁のあちこちに宝石が埋め込まれていてとてもゴージャス。


「それでは行くぞ、タイゾウ」

「え、僕も中に入れるんですか?」


 パピヨンお嬢様の思わぬ言葉でキョトンとする僕に、公爵が説明をした。


「なにせこの巨大な宿だからな、巨体のタイゾウ殿でもロビーまでなら入れるだろう」

「そうですか」


 そういえばアフリカゾウの身体になってから建物の中に入るのは初めてだから、ちょっとワクワクするかも。


 そして巨大な扉が開かれると、中は豪華絢爛な装いになっていた。


「これが異世界の高級ホテル……!」


 天井から吊り下げられたいくつもの大きなシャンデリアにおしゃれな階段。


 まさに絵に描いたような高級ホテルの構図がそこにはあったんだ。


「お、お邪魔します……」


 進路に沿って敷かれた赤いカーペットを踏んでホテルに入ると、中はとてもゴージャスな匂いで満たされている。


 そんな僕に受付のお姉さんが目をひんむいて驚愕していた。


「お客様? そのお方は……」

「ああ、このお方は我々バタフライ一同の連れであるタイゾウだ。失礼のないように頼むぞ」


 当然のようにそう言ってくれたバタフライ公爵に、僕はなんか嬉しくなる。


 やっぱり仲間だと認められるのはいい気分だぞう。


「か、かしこまりました。それではタイゾウ様以外はこちらへどうぞ」


 そうしてバタフライ公爵たちは階段を上がって部屋へと案内されて、僕は外の馬小屋へと連れていかれることに。


 まあこうなりますよね。こんなデカい動物がロビーに居座ってもホテル側の迷惑だろうし……。


 その馬小屋も敷き詰められた藁がふかふかで、悪くない心地だった。


 当然そこにいた馬たちも、アフリカゾウの僕を見てビックリしていた。


 お馬の皆さん、失礼いたします。


 そうしてこの日は馬小屋で一夜を過ごすことになったんだ。

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