第49話副団長side ~複雑な心境1~
「わかりました」
「すまない」
「いいえ、団長の判断は正しいです。
「そうか」
「はい」
終始、困った表情の団長。
仕事に私情を挟む気はないが、それも絶対とは言えない。
ほんの少しの隙でソレが出るかもしれない。割り切っていたとしても、そういった背景を考慮すれば、団長の判断は至極当然だ。不安要素は排除するに越したことはない。
「では、自分はこれで失礼します」
「ああ、ご苦労だった」
一礼して団長室を出ていく。
『
そして……。
令嬢は、第三王子殿下との婚約が結ばれた。
将来、王族になる令嬢だ。
公爵家からの護衛はあるが、それを含めて近衛騎士が護衛につくことになった。
本来なら俺がそれを決める立場にあった。箔付けの意味を込めて副団長が一時期護衛にどうかと言う話もあったらしい。まあ、それは団長が断ったようだが。
「公爵令嬢に箔付けなんかいらねぇだろうよ」
複雑だった。
彼女には負い目がある。
俺の個人的な感情だ。
もしかすると、団長を俺に言わないだけで上から何か言われているのかもしれねぇな。団長はそういう立場だ。
「まあ、俺が考えても仕方ないか」
分ってはいるんだ。だが、割り切れない部分も少なからずあった。
「はぁ」
思わず出た溜息。
それが一層、俺の気分を落ち込ませた。
「流石は公爵家の御令嬢だ」
「ご聡明でいらっしゃる」
「既に共通語を完璧にマスターしているとは……。そればかりか数ヶ国の言語まで……素晴らしいとしか言いようがない。彼の御令嬢なら今すぐ外交交渉の場に赴いても全く問題ないだろう」
王宮に入れば嫌でも耳に入ってくる。
遠くから見かける従妹の娘。大人びた少女だった。賢い子供だと専らの評判だ。
妃教育すら必要ないのでは?とまで言わしめた。
確か十一か十二歳だったか。……娘が家に戻って来た年齢だなと、つい関係のないことを考えちまった。
遊びたい盛りだろうに。
随分としっかりしている。……しっかりしている、の一言では片付けられない。高位貴族の令嬢だからって訳ではないだろう。
きっと、あれは令嬢の性質だ。
当たり前だがエンビーとは全く違う。
あの年頃のエンビーはもっと子供っぽかった。ああ、今も子供だ。未成年の子供。
比べるものじゃない。
比べられるものでもない。
相手は貴族のトップだ。
その血を引いているんだ。
エンビーと違っていることは当たり前のことだ。
だから、従妹の娘が賢すぎるのは何もおかしなことじゃない。
深い緑色の瞳が暗く感じるのも気の所為だ。令嬢の髪が黒髪だからそう思えるんだ。
時折、周囲を観察するかのように鋭い眼差しもきっと俺の気の所為なんだ。そうに決まっている。
令嬢に。可愛い従妹の子供にゾッとする程の悪寒を覚えちまうのも、不気味に感じちまうのも、全部……全部、気の所為なんだ。
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