第27話副団長一家の評判1

 フィデが調べたところによると、副団長の家庭は色んな人達の妬みを買っていたらしい。

 家庭といっても、妻と娘の二人が妬みの対象だったらしく、伯爵家の庇護を喪ったエンビー嬢は、そういう人達の恰好の的だったということだ。


『幼い子供を利用して伯爵家に取り入っていたのが許せなかった』という声も、勿論ある。


『自分の夫の親戚だからって夫人が娘を売り込んだって話しよ』


『伯爵家の実子が大病で生死の境を彷徨っているとき、よくやるわ』


『大方、後釜を狙ってたんじゃない?伯爵家の実子が病死したら自分の娘を伯爵家の養女にして貰えるって算段よ。あの人、抜け目ないもの。絶対に狙ってたって!』


『頭の良い人だもんね。それくらい考えてたっておかしくないわ。副団長が平だった頃から知ってるけど、あの人、本当に付き合い悪いのよね。私は貴方達とは違うのよ、って態度が露骨なのよ。副団長は良い人なのにね』


『なんでまた、あの人と結婚したのかしら?確かに美人だけど、家事全般が壊滅的だって話しでしょう?』


 などなど。

 副団長夫人は元からあまり評判は良くなかったらしい。


『おまけに、娘を伯爵家にやって、自分は王子の乳母でしょ?抜擢されたって話しだけど怪しいわよ』


『あの人のことだから自分から売り込みに行ったんじゃない?頭の良い私は乳母に最適ですって』


『あはは。あり得そう!』


『あの人、子供を死産で亡くして鬱になってたって話しだけど、本当かな?その割には直ぐに立ち直ったぽいけど?』


『そういうフリをしたんじゃない?そっちの方が都合がいいって判断したのよ』


『え?どういうこと?』


『伯爵夫人に共感してもらえるでしょ』


『あ、そうか。そうよね。自分の子共の死まで利用する……あの人ならやりかねないわ』


『うん』


 などなど。

 副団長夫人がいかに計算高いかを力説するご婦人方が後を絶たない。


『考えてみたら副団長の娘さんも気の毒よね。母親に出世のダシにされて。娘さんが伯爵夫妻の寵愛を得たら、王子の乳母になった自分も伯爵家の後ろ盾を得られたって寸法よ。今頃、当てが外れて残念がってるんじゃない?』


『かもね。だから娘さんが問題起こしても家に帰ってこないのよ。利用価値が無くなったとか思ってそう』


『娘さんが荒れるのも無理ないわよね。小さい頃から母親のエゴに付き合わされてきたんだもの』


『でも、娘さんだって良い思いもしたんじゃない?伯爵家で贅沢に暮らしてきたって話じゃない。騎士団に伯爵夫人と来てたとき見たでしょ?高そうなドレスを着てたわよ。ここに戻ってきた荷物だって高そうなものが山ほどあったし』


『だからじゃない?あの娘さん、絶対にまともな感覚が身に付いてないわよ。今だって自分のことを伯爵令嬢だと勘違いしてるんでしょ?』


『娘さんからしたら伯爵家に養子にいったような感覚だったんじゃない?あの頃はまだ小さかったし』


『あー、なるほど。あるかもね』


 などなど。

 エンビー嬢に関する噂は、尽きることがないらしい。

 それでも、エンビー嬢が問題を起こす度に、副団長を擁護する意見は多かった。

 これが人徳の差というものだろう。

 その分、副団長夫人の評判は落ちる一方だったので、嫌われぐあいはエンビー嬢の比ではない。



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