第28話副団長一家の評判2
「副団長夫人の評判は頗る悪いです。元々、ご婦人方の評判は良くなかったのですが、エンビー嬢が問題を起こす度に、副団長夫人の評判は下がる一方です。これはまぁ、当然といいますか、副団長夫人がご家庭を顧みないことが原因でしょうね。娘のことは夫に任せきり。休日でさえも家には殆ど帰っていないようですし」
「そこまで酷いなら、いっそのこと離婚してしまえばよろしいのに……」
「そう簡単な問題ではないことはお嬢様がよくご存知でしょう?」
「娘よりも己の出世が大事ということかしらね」
王子の乳母で終わるはずだった女性。
それだけでも平民出身の彼女からすれば前代未聞のこと。
その上、王子の教育係にとなれば、彼女の影響力はこれらから増していくだろうし……うまくいけば、の話しだけれど。
「女性の社会進出の先駆けとなる人物です。王家としても副団長夫人の肩書を持つ才女を手放したくないのでしょう」
「王家が主導して行おうとしている政策ですものね。副団長夫人ほど都合の良い人材はいないでしょう。でも、だからといって、ご自身の家庭を顧みないのは如何なものかしら」
「元々、副団長夫人は向上心の高い人です。この五年、チャンスを逃さないよう、脇目も振らずに走ってきたことは明らかです」
「それで家族を蔑ろにしていい理由にはならないでしょう」
「お嬢様、それは副団長夫人に言ってください。私に言われても返答のしようもありません。それに、世間には母親になりきれない女性は大勢いますからね。子供を産めば母性が芽生える。なんて幻想です」
言い切られてしまった。
元孤児のフィデに言われてしまえば、私は何も言えない。
そういえば、フィデは幼少期に孤児院の前に捨てられたと聞いたことがある。
公爵家が支援している孤児院だったし、公爵家の執事長の養子になってはいるけれど、フィデが孤児院出身だというのは周知の事実。
スマートな立ち居振る舞いと公爵家の教育が合わさり、一見すると貴族にしか見えない。
「フィデが言うと説得力があるわね」
「ありがとうございます」
「……でも、そうね。確かにそうかもしれないわ」
人様の親をとやかく言えない。
私の両親は二人揃って親の自覚が乏しいのだから。
あら?
そう考えれば私はエンビー嬢よりも親に恵まれていないわ。
彼女の場合、父親はマトモなわけだもの。
副団長も頑張って父親をやっているようだし……。
ぎこちないながら手探り状態とはいえ、副団長は娘との接し方を学んでいる最中ですもの。
「妬み嫉みはどこの世界にもありますから、仕方がないことでしょうね」
「そうね」
「今までの抑圧が一気に噴き出した感じです」
「そのようね」
エンビー嬢からしたら堪ったものではないでしょう。
理不尽だと感じているはず。
けれど、それもある意味仕方のないこと。
周囲からすれば、自分達とさほど変わらない存在が、遥か雲の上に行ってしまったようなものだわ。
嫉妬するなという方が無理というもの。
「最初は同情する人もそれなりにいたようですが、今ではもう……」
「エンビー嬢に同情する人はいないでしょうね」
「はい。人とは慣れる生き物ですものです」
「嫌な慣れね」
今までは伯爵家の目を気にして表立って攻撃できなかったけれど、その伯爵家の庇護がなくなった今、もう遠慮することはない。そう考えている人は思っていた以上に多そうだ。
伯爵家から追い出された、と同情されている間に騎士団にいる人達と馴染めばまだ問題なかったのに。もしくは、馴染める努力をすれば周囲に味方を作れたかもしれない。今更だけど。
彼女がどう思っていたかは知らない。だけど、伯爵家は間違いなく副団長一家の後ろ盾ともいえる存在だった。
お母様と副団長が親しい親戚だと王家も調査して知っているはず。だからこそ、副団長夫人が乳母に抜擢されたはず。
そのことを理解しているのかしら?
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