第25話副団長side ~娘の変化2~

 騒動を起こした娘は伯爵家からクビを言い渡された。

 追い出されたと知った娘は伯爵邸に乗り込もうとしたが、当然阻止された。

 騎士団の本部で事情を聴いたが、俺は娘の言っていることが理解できなかった。


『どうして!?私は自分の家に帰ろうとしただけよ!』


『お嬢ちゃん、プライド伯爵家は君の家じゃないよ』


『私の家よ!だってずっと住んでたんだもの』


『そうだね、だが、お嬢ちゃんが住み始めたのは五年前からだ。その前は?住んでいなかっただろう?』


『引っ越しただけよ』


 身内ということで、俺が直接問いただすことはできない。

 娘の見えないところで聴くだけだ。

 娘の受け答えは小さな子供のソレだった。

 間違っちゃあいないが、正しいとも言い難い。


『いいかい、お嬢ちゃん。また、引っ越したんだ。今度は他所の家ではなく、自分の家にね。だから今はお父さんと一緒に暮らしているだろう?』


『私は元の家に戻りたいの』


『伯爵様が拒否しているから無理だね』


『どうして伯爵様が関係するの?あの家はロディおねえちゃまの家でしょ?』


 これもまた間違っちゃいない。

 ロディーテの家だ。

 ただし、ロディーテが嫁いだ家。


『屋敷の主人がプライド伯爵様だからさ。決定権は伯爵様にあるんだよ』


『伯爵様なんて関係ないわ』


『お嬢ちゃん、それはできないよ』


『どうしてよ!』


 もう、この問答は何度繰り返されただろうか。

 娘に質問する騎士はうんざりしていた。


『お嬢ちゃん、君はもう十二歳だ。自分の立場をわきまえないとね』


 堂々巡りの会話に意味はなさない。

 担当騎士が強制的に会話を終了させた。

 無理もねぇ。

 俺だって相手が娘でなけりゃ、とっくにブチ切れてる。


 家に帰った後、俺は娘に言い聞かせた。

 娘は俺の言葉を聞き入れなかったが。

 いや、聞き入れることができなかったんだろう。


 娘との暮らしはギクシャクした。

 当たり前だ。

 ただでさえ男親なんだ。

 しかも五年間のブランクがある。

 俺は娘とどう接していいのか分からなかった。


 娘はよく家を飛び出そうとする。

 その度に捕まえては説教だ。


「お前はもう伯爵家に行っちゃあいけないんだ」


「いや!私はおねえちゃまと一緒に暮らすの!」


「ロディーテはもうお前の“おねえちゃま”じゃないんだ」


「おねえちゃまだもん!」


 そんなやり取りを何度繰り返したことか。

 話しの通じない娘を、俺は持て余していた。

 王宮に居るアンビーに何度も家に戻ってきて欲しいと頼んだことか。

 だが、アンビーは首を縦に振らなかった。


『今、私が帰ったらあの子の将来が狭まるわ。貴方の出世にだって影響するかもしれないのよ!?』


『無茶を言わないで!やっとここまで漕ぎつけたのに!』


『相手は王族なの!せっかくのチャンスを逃したくないわ。これは女性が社会で活躍できるきっかけになるかどうかなのよ』



 アンビーの言い分も理解できる。

 だが、俺はアンビーに傍に居て欲しいんだ。

 エンビーとの意思疎通が上手くいかない。

 親子なんだ、会話できて当たり前のはずが、言葉が通じない。

 事あるごとに「家に帰りたい」という。

 お前の家はここだ。

 伯爵家じゃない!


 そんな感じだからな。

 エンビーは騎士団の子供達から遠巻きにされている。

 子供達に何をしたわけじゃない。

 だけど、腫れ物扱いだ。

 それがエンビーには我慢ならなかったんだろう。

 度々問題を起こすようになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る