第17話メイド失格

 お母様の愛玩動物エンビーが屋敷を去りました。

 意外といってはアレですが、あっさりとしたものです。

 まぁ、お父様が「お前、もう不要」と言って追い出したものですが。

 使用人達は喜んでいる様子から、よほど苦労したのでしょう。

 メイド達は特に。


 エンビー嬢に教えるのはそれは大変だったと、メイド長は愚痴をこぼしていましたからね。


『何十回、同じことを言い聞かせても覚えないのです』


『やる気がないといいますか。何故、自分がやらなくてはならないのかを理解していないといいますか。もう、嫌になります』


 ご苦労様です。

 使用人達の無駄な苦労もこれで終わりを向かえると思うと、なんだか私まで嬉しくなります。



「そういえばエンビー嬢の荷物はどうなっているの?」


 私の質問にメイド長は喜々として答えてくれました。


「荷造りをして明日には送り届ける手はずになっています」


「そう、ありがとう。面倒をかけるわね」


「とんでもございません。エンビーの荷物を処理するのに使用人一同喜んでおりますので、お嬢様はお気になさらないでください」


 それは喜んでいいことなのでしょうか? とりあえず労うことにしたのですが。

 

 翌朝、エンビー嬢の私物を使用人達が次々と運びだし始めた。

 それを次々と馬車に乗せていく。


「エンビー嬢の私物……かなりあったのね」


 思った以上に大量でした。


「……これは奥様が彼女のために購入なさったものばかりです」


「納得だわ」


 きっと、エンビー嬢で着せ替え人形ごっこでもしていたのでしょう。


「それと……お嬢様、少し宜しいでしょうか」


 神妙な面持ちのメイド長。

 何か、あったのかしら?





 …………メイド長が言いづらそうにしていたのは、エンビー嬢の私物に「私のものがいくつか混ざっていた」こと。

 詳しく調べてみると、明らかに窃盗されたものが数十点。


「どうやらエンビーはお嬢様の部屋の掃除をする傍ら、少しずつくすねていたようです」


「そう」


 エンビー嬢が盗んでいたものは、小さな品々ばかり。

 おそらく、ポケットに収まるようなものばかり選んだ結果なのでしょう。

 まさか手癖が悪かったなんて……。

 これは私の手に余るものだわ。


「お父様にお知らせして」


 当主に判断してもらわなければ。

 子供だからと見逃すのか、それとも……。


 父は警察に連絡。

 保護者のラース副団長に報告。

 未成年の子供であること。

 また初犯ということで、厳重注意となりました。


 エンビー嬢は今まで盗んだことを謝罪することなく、家に引き籠っているそうです。


 これで彼女との縁も完全に消えたと、そう思っていたのですが。






「開けてよ!私よ!エンビーよ!どうして入れてくれないの!?」


 屋敷の門の前で騒いでいるのはエンビー嬢。

 門番は憮然。

 彼らは、父に「エンビー嬢が来たら、追い返せ。決して伯爵邸に入れないように」と厳命されています。


「私はここの子よ!中に入れなさい!」


 エンビー嬢が門前で叫ぶ。

 白昼堂々と、しかも大声をあげて。

 伯爵家を罵り、自分の要求を声高に叫び続ける。


 いい迷惑だわ。


「騎士団に連絡をしてちょうだい」


 警察ではなく、騎士団。

 保護者父親もいることだし。丁度いいでしょう。


 


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