第15話エンビーside 〜本物の令嬢〜

 ロディおねえちゃまの子供。

 その存在は知っていた。

 病気で入院しているって。

 でもずっと会ったことがなかった。


 それなのに……。


 ユースティティアと名乗った少女。

 初めて会うロディおねえちゃまの子は、おねえちゃまにちっとも似ていなかった。


 黒髪の巻き毛は、何だか不気味に感じた。その瞳も、深い緑色で、まるでガラス玉のようだった。

 冷たい陰気さを感じる。


 おねえちゃまは、全体的にふわふわした印象だから、まるで逆。似ているのは髪質ぐらい。


 ピンクブロンドの髪に、同じピンクの瞳。

 まるで絵本に出てくるお姫様みたい。

 抱きしめてくれる腕は、とても柔らかくて、いい匂いがする。

 春のお花の香り。


『娘が帰ってくるの。きっとエンビーちゃんと仲良くなれるわ』


『エンビーちゃんはお姉さんね』


 勘違いしていたの。

 おねえちゃまに似た女の子だとばかり。

 こんなにも似ていないなんて想像もしていなかった。


『ユースティティアは父親に似ているのよ』


 そういえば、プライド伯爵様と同じ髪の色。目も同じ。顔立ちだって……。


 ユーノス・プライド伯爵。

 おねえちゃまの旦那様。

 お父さんよりずっと上品な人。

 でもちょっと苦手。

 どこが?って聞かれると困るんだけど。なんとなく。


 そう。

 なんとなく苦手な人。


 その伯爵様に似ているせいか、私は彼女にどう接していいのかわからなかった。

 一緒に勉強するようになっても変わらなかった。



『まあ!ユースティティア様はもう二ヶ国語をマスターなさったのですね。素晴らしい』


『流石はグリード公爵家。お孫様もどうように優秀とは……』



 先生達は、彼女ばかり褒める。

 私は一度も褒められたことがないのに……。


 おべっかばかりの先生達にうんざりした。



『エンビー嬢、数学の問題は解けましたか?』


『え?まだ……』


『ユースティティア様は終わっていますよ』


 だからなんだって言うの?

 問題を解くのに時間なんて関係ないじゃない。本当に意地悪なんだから!


『年下のユースティティア様は解けて、エンビー嬢は出来ないのですか?』


 仕方ないじゃない。

 難しいんだもの。

 もっと簡単な内容ならすぐに解けるわよ!


『ユースティティア様は既に修了しているというのに……。エンビー嬢との合同授業では、ユースティティア様の授業に支障がでるな』


『ユースティティア様は優秀ですから。エンビー嬢に合わせるのは気の毒というものです』


『五歳も年下の子供に負かされるとは……』


『エンビー嬢は真面目に授業を受けませんからね。こうなるのは予想がついていましたよ』


『比べるのもおこがましいな』



 ひどい!ひどい!ひどい!!

 私は頑張ったわ!

 なのに、誰も認めてくれない。

 なんで認めないのよ!こんなのおかしい!

 皆、あの子のことばっかり贔屓して!

 私はこんなに頑張っているのに!


 あの子もあの子よ!

 私が仲良くしてあげようとしたのに!


 お母さんからの手紙には書いてあったもの。

 仲良くしてあげるようにって。

 お父さんだって言ってた。

 ずっと病気だった子だって。


 可哀想な子だって分ったから。


 あの子と仲良くできないのは私のせいじゃない。

 あの子が私と距離を取っているせいよ!

 私だけじゃない。

 おねえちゃまとだって距離を取ってる。

 線を引いている。

 家族なのにどうして?



『貴女は私の家族ではありませんよ』


 どうしてそんなこと言うの?

 どうしてそんな目で私を見るの?


 分からない。あの子は、いつも氷のような目で私を見る。

 胸が苦しくなるの。

 だって、おねえちゃまが言ったのよ。


 私達は家族でしょ……?



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