第14話エンビーside 〜壊れた日常〜

「これからは伯爵家の見習いメイドです。その立場を弁えて行動するように」


 何を言われたのか分からなかった。

 私が何?

 なんで使用人に?

 この人は何を言っているの?


「エンビー、返事は?」


「……はい」


「宜しい。それでは、仕事に取り掛かりなさい」


 怖そうなおばさんが偉そうに私に命令する。

 なに?

 何が起こっているの!?

 分からない。

 この状況が理解できない。


 何が何だか分からないまま、一日が終わった。


 明日になれば元に戻っているよね?


 そう願ってベッドに入り、眠りに付いた。

 夢であれば良い。

 もしかしたら今夢の中なんじゃないかって思う。

 だってそうじゃなかったらおかしいもん。


 目が覚めたら元通りに戻っているに違いない。

 きっと、そうに違いない。


 なのに……。

 なんで?どうして? 朝が来ても夢から覚めない。

 夢じゃなかった。


 毎朝、ロディおねえちゃまに整えて貰っていた私の自慢の長い髪。

 それをひとまとめにされて、頭の後ろで縛られた。


「準備は整いました」


「そう、では行きましょう」


 先輩メイド?って人が、私を置いてけぼりにして昨日の怖いおばさんと会話している。

 状況が飲み込めない。

 怖いおばさんに腕を掴まれて引っ張られた。

 痛い。痛いよ。放してよ。

 私はロディおねえちゃまの所に行くんだから!


「エンビー!早く来なさい!」


 怖いおばさんが怒鳴った。

 なんで?なんで私が怒られなくちゃいけないの? 私は何も悪いことしていないのに。

 でも、逆らうとまた怒られそうだから、言う事を聞くしかない。


 嫌だった。

 でも逆らうこともできない。

 辛くて泣いてしまった。そんな私を怖いおばさんが睨んでいる。


「泣くのをやめなさい!」


「うっ……く。ご、ごめんな……しゃい……っく……」



 どうして?

 私が泣いても誰も慰めてくれない。

 ロディおねえちゃまはどうして来てくれないの?

 いつだって私の味方だったのに。


 あの日から、私の全てが一変した。

 使用人が着る服を着せられ、朝から働かされた。


 ロディおねえちゃまの部屋に行こうとしたら、怖いおばさんに止められた。


 あの日から一度も会っていない。


 勉強をする必要がなくなったけど、その分だけ給仕や掃除の仕方を徹底的に教えられた。

 もう、嫌だよ。

 怒られてばかりだし、ご飯も美味しくないし、ベッドも硬い。

 ロディおねえちゃまに会いたい。
















『遠慮しないでいいのよ。今日からここがエンビーちゃんの家なんだから』


 そう言ってくれたよね?

 初めて見た大きなお屋敷。

 広い部屋。

 綺麗なドレス。

 ふかふかのベッド。

 甘いお菓子は口の中で蕩ける美味しさだった。

 毎日が楽しかった。

 そんな生活が、ずっと続くと思っていたのに。


 なんで?

 どうしてこんなことになっちゃったの?


 幸せな日々から辛い毎日。



「お嬢様の部屋の掃除をしておきなさい」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る