エド君を迎えに行こう!

「そろそろエド君が最奥に到着する頃だそうだよ。特等席で見物しよう」

「ま、待ってヨシュア兄さん……!」


 マリオンは姉妹たちとルミナスに乗ってカーナ神国に到着してから、昔馴染みのルミナスたち綿毛竜コットンドラゴンのご主人様の屋敷に世話になっていた。


 ルシウスというハイヒューマン、聖剣の聖者の家だ。

 屋敷にはちょうど彼の甥っ子がいて、何かとマリオンたちの世話を焼いてくれた。


 ヨシュアという、ルシウスとよく似た青銀の髪と湖面の水色の瞳持ちの麗しい青年だ。

 彼は姉妹の妹ハスミンの弟子だそうで、あれこれ師匠に我儘を言われてはハイハイと大人しく従っていた。


「ここのダンジョン、ランクトリプルSでしょ? さすがに僕のランクじゃ入れないよ」

「大丈夫。屋敷の地下室から昇降機と秘密の地下通路で最深部に繋がってるんだ。手前に隠し部屋があるからそこで決着がつくまで待ってよう」

「わあ、ダンジョン管理人一族の秘密を知ってしまった……」

「ピュイッ」(ルシウス様とぼくたちのご先祖様がダンジョンまでの縦穴を掘ったんだよー)

「そうなの!?」


 最難関ダンジョンとはいったい。




「おや、もう戦闘してるのか。マリオン、ルミナス、急いで」

「はいっ」

「ピュイッピー!」


 滞在する屋敷の地下室から階段などで降りるかと思えば、まさかの魔導式エレベーターで数十秒。

 エドアルド王子を出迎えるダンジョンボス役のハイヒューマンのおじちゃんは、確か今日はいつ王子が来ても良いように朝からビシッと格好を決めて降りていたはず。


「ダンジョンの最奥部の壁の裏手に繋がってるんだ。そこに隠し部屋があってね。ダンジョン踏破した猛者たちに授ける宝物をストックする倉庫になってる」

「冒険者たちには聞かせられない話ですね……」


 ドロップ品までダンジョンボス一味が用意しているとは。


 ちなみにこのヨシュアは大魔道士、中ボス担当だ。

 機嫌が良ければ遭遇した冒険者に魔法か魔術付与の付いた武具やアイテムを授け、虫の居所が悪ければ身包み剥いで自分の記憶を魔法で消してからダンジョンの外にぽいっと追い出している。




「ま、マリオン……マリオン、愛してるー!!!」


「へ?」


 突如聞こえてきたエドアルド王子の悲痛な叫び。

 そして壁の向こう、つまりダンジョン最奥部からの強烈な閃光の後で、剣戟の音も、話し声も何も聞こえなくなった。


「随分早かったね……新たな剣聖だって聞いてたけど、根性なしにも程がある」


 隠し通路と隠し部屋、最奥部を隔てていた透明な壁にヨシュアが触れると、壁自体が溶けるように消えていった。

 魔法樹脂という魔力で作る透明な樹脂なので加工は自由自在なのだ。


「エド!」


 剣を掴んだまま地面にうつ伏せに伸びてしまっている人物に、マリオンは慌てて駆け寄った。


「ピュ? ピュン?」(しんだ? いきてる?)


 ルミナスがもふもふの前脚で突っつくと、意識はなかったがちょっと呻いていた。

 どうやら無事らしい。生きている。良かった。


「ということは」

「ああ。耐えたぞ、我が聖剣の試練に」


 手の中の聖剣を魔力に戻して、ハイヒューマンのおじちゃん、もとい聖剣の聖者ルシウスが満足気に頷いている。


 そして、すっかり伸びてしまっているエドアルド王子の身体を起こして仰向けにすると、胸元に手を当てた。


「ステータス・オープン」


 王子の体の上に、四角い半透明のウィンドウが浮かんだ。

 人間の持つ各種の情報や能力値を可視化できる汎用魔法である。


 ステータス画面を見ながらルシウスが考え込んでいる。

 そう、カーナ神国の最難関トリプルSダンジョンの踏破特典がこれだ。ダンジョンボスから挑戦者に相応しいスキルを授けてもらえる。


「さて、どんなスキルを授けようか。剣聖ならばやはり破邪か? ……む、破邪スキルに適性がないとは。代わりに賦活ふかつがある……なるほど邪を祓うより人々を元気付けるのに長けているのか」

「なんです? 賦活ふかつって?」

「わかりやすく言えば、『活性化』だな。良いエネルギーを刺激して増やすスキルだ」

「わーエドっぽい!」


 タイアド王国では人気者の王子様ですしね。


「……あ」


 ステータス画面の補足欄に『異世界転生者』『前世の記憶を持つ者』などを見つけて、マリオンは息を飲んだ。


 ちょいっとその部分の文字列に触れてみると、詳細解説として彼が前世の自分と今の自分を混同し混乱することがあるなどの注意点が付記されている。


(やっぱりエドって……)


「とりあえず戻ろう。叔父様、エド君をお願いしますね」

「もちろん」


 ルシウスが軽々と意識を失ったままのエドアルド王子を横抱きに抱え上げて、一同はダンジョンから屋敷へ戻ることにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る